映画『国宝』を観終わって、
しばらく席を立てなかった。
感動というより、
「重さ」が残る作品だった。
スタートの西暦を失念したせいで、
時折り語られる年齢と「何年後」というアナウンスから
今いくつなのかをずっと計算していた。笑
でも、それすらもこの映画では、
人生の長さを実感させる要素だったように思う。
※以下、ネタバレあり
全てを捨てて人間国宝になったキクちゃん
全てを捨てて人間国宝になったキクちゃん(吉沢亮)。
結果的には、
報われた人生なのかもしれない。
でも、そこに至るまでがあまりにも過酷で、
途中からは可哀想すぎて正直つらくなった。
予告編の印象では、
シュンちゃん(横浜流星)と
もっとギスギス、バチバチの関係なのかと思っていた。
けれど実際は、
仲が良く、切磋琢磨してきた戦友で、
あまりにも「良いライバル」だった。
それが逆に、残酷だった。
吉沢亮というキャスティングの妙
「綺麗な顔の役」という点では、
吉沢亮はとても良いキャスティング。
ただ、女形の格好をすると、
意外と“男感”が出るのが印象的だった。
美しいのに、どこか無骨。
その違和感が、
キクちゃんという人物の居場所のなさを
象徴しているように感じた。
ハルちゃんは恋人ではなく「共依存」
キクちゃんを追いかけて
はるばるやってきたハルちゃん(高畑充希)。
プロポーズまでされたのに、
あとから思うと
「あの日々はなんだったの?」
と思うくらいの裏切り。
でも、プロポーズを断った時点で、
もう答えは出ていたのかもしれない。
最初は
「キクちゃんがいないと生きていけない」
と言っていた。
でも実際は、
共依存状態だったと思う。
弱っている男を支えることで
自分のアイデンティティを保つタイプの女性。
自分が支えてあげたいと思っていた男が、
自分の力で遥か高みに行き、
自分を必要としなくなったと感じたのだと思う。
当主の嫁としては、
やっぱり難しかっただろうなと思った。
「探している景色」と父の死に様
キクちゃんが人間国宝に選ばれた時のインタビューで語っていた
「探している景色」。
それを、
舞台の上で見つけた瞬間に
物語は終わった。
父に
「よく見とけ」
と言われた死に様。
真っ白な地面に倒れ込み、
雪が舞っていたあの光景。
あの“白”と、
舞台の上で見た景色が
リンクしていたように思えた。
歌舞伎=悪魔との契約
全てを捨てて
歌舞伎だけに生きることを、
「悪魔との契約」に準えたのがとても面白かった。
結果的に、
多くのものを犠牲にしながらも人間国宝になったことは、
人生を賭けた仇討ちに成功した、
という感覚に近いのかもしれない。
父の仇討ちは「しくじった」のか
父の仇討ちを
「しくじった」
と言っていたけれど、
その経緯は多くが端折られていた。
銃を持っていた兄貴分はどうなったのか。
描写がないということは、
亡くなったのだろうか。
母をはじめとした親族は
原爆症で亡くなったと言われていた。
でも、
遺言があったということは即死ではない。
キクちゃんだけが生き残った理由も、
はっきりとは語られない。
原爆投下の時、
遠方の少年院にでも入っていたのだろうか、
と想像してしまった。
血筋の世界と、渡辺謙の存在
渡辺謙演じる人物は、
歌舞伎の世界が血筋で成り立っていることを
よく分かっている。
だからこそ、
原石としてのキクちゃんに目をつけ、
手を伸ばした。
代役を任せたことで
本気で後継に考えているのかと思った。
でも、そうではなかった。
亡くなる寸前に呟いたのは、
結局、息子の名前。
キクちゃんは、
シュンちゃんの「良いライバル役」として
連れてこられた存在だったのだと思う。
それを、
キクちゃん自身が一番痛感したはずだ。
努力が評価されない世界への憎しみ
キクちゃんにとって、
渡辺謙からの期待は
心の支えだったのだと思う。
だからこそ、
後ろ盾を失い、
誰も助け舟を出してくれなくなった時、
気持ち的にも限界だったのではないか。
そこにライバルの帰還。
かつての恋人との間に生まれた男児。
追い討ちをかけられるような状況だった。
万菊さんが
「歌舞伎が憎いんでしょ」
と言った場面。
あれは、
シュンちゃんではなく
キクちゃんに向けた言葉だったように思える。
血筋ではないという理由だけで
どれだけ努力しても評価されない。
それでも、
やめられないほど
歌舞伎にのめり込んでいる自分がいる。
そりゃ、憎くもなる。
幼少期から描かれる二人の対比
幼少期からずっと描かれてきた、
キクちゃんとシュンちゃんの対比。
才能と血筋。
努力と宿命。
どちらが正しいかなんて、
簡単に答えが出る話ではない。
だからこそ、
観終わったあとも
ずっと考えさせられる映画だった。


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