――ジェットコースター的体験を心理学で読み解く
「スマホを見ているとすぐ気持ち悪くなる」
「助手席より後部座席の方が酔う」
「ジェットコースターは平気なのに、バスはダメ」
こうした体験は、視覚優位という情報処理のクセと、車酔い(動揺病)のメカニズムを知ると、とても筋が通って見えてきます。本記事では、心理学・神経科学の視点から、なぜ視覚が強い人ほど酔いやすいのか、そしてどう付き合えばよいのかを、少し深く掘り下げて考察します。
私たちは「3つの感覚」を統合して世界を把握している
人が「今、自分はどう動いているか」「体は安定しているか」を判断するとき、脳は主に次の3系統の感覚を統合しています。
- 視覚:目から入る景色・動き
- 前庭感覚:内耳(三半規管・耳石器)による加速・回転の感覚
- 体性感覚:筋肉・関節・皮膚からの姿勢や圧の情報
これらが一致しているとき、脳は「安全・安定」と判断します。逆に、食い違いが大きいとき、脳は混乱します。
車酔いの正体は「感覚不一致」
車酔いは、古典的には感覚不一致理論で説明されます。
- 目は「景色が流れている」「動いている」と報告する
- 体はシートに固定され「あまり動いていない」と報告する
- 内耳は「揺れている・加速している」と報告する
この情報のズレを、脳が「異常事態」と解釈した結果、吐き気・冷や汗・めまいといった反応が起こる――これが、車酔いの基本モデルです。
視覚優位とは何か?――情報処理の「重みづけ」
視覚優位とは、「情報処理の際に視覚情報の比重が高い」状態を指します。心理学的には、感覚モダリティ(視覚・聴覚・体感覚など)への注意配分のクセと考えると分かりやすいでしょう。
視覚優位な人の特徴として、例えば:
- 情報を「映像・図」で理解しやすい
- 周囲の動きや光の変化に敏感
- 目からの情報が多いと疲れやすい
があります。
つまり、視覚からの入力が、脳内で強く影響力を持つのです。
視覚優位 × 車酔い=なぜ不利になるのか
ここで、視覚優位と車酔いがどう結びつくかを整理します。
● 視覚情報が「強すぎる」
視覚優位な人は、「流れる景色」「揺れる視界」「視野の端の動き」といった情報を、過剰なほど正確に拾います。
結果として、
- 視覚:「かなり動いている!」
- 体感覚:「座っているだけ」
- 前庭感覚:「揺れている…」
という三者の不一致が拡大します。
● 脳が「どれを信じていいかわからない」
本来、脳は複数の感覚を統合して一つの現実像を作ります。しかし視覚優位な人では、視覚の主張が強すぎて、前庭感覚や体感覚との折り合いがつかなくなるのです。その結果、「この状況は危険かもしれない」という原始的な警告反応が作動し、吐き気が起こります。
ジェットコースターは平気なのに、車は酔う理由
ここで冒頭の疑問に戻りましょう。
なぜジェットコースターは大丈夫なのか?
理由はシンプルで、感覚が一致しているからです。
- 視覚:猛スピードで落ちる
- 前庭感覚:強い加速・落下
- 体性感覚:Gを感じる
三者が「同じこと」を言っているため、脳は混乱しにくいのです。
さらに、
- 見通しがよく、進行方向が分かる
- 自分で「乗る」と選択している(予測可能性が高い)
といった要因も、酔いを軽減します。
なぜ車やバスはダメなのか?
- 視線が固定されがち
- 進行方向が見えない
- 揺れが不規則
これらはすべて、感覚不一致を増幅させる条件です。
視覚優位な人ができる、現実的な対処法
心理学的に理にかなった対策をいくつか挙げます。
① 進行方向を見る(視覚と前庭を一致させる)
一番効果的です。景色の流れを「動きとして受け入れる」ことで、視覚と前庭感覚のズレが縮まります。
② スマホ・読書を避ける
視覚が「静止」を報告してしまうため、不一致が最大化します。視覚優位な人ほど、これは致命的です。
③ 座席選びを工夫する
- 車:助手席
- バス:前方
- 電車:進行方向向き
予測できる視覚情報が増えるほど、脳は安心します。
④ 目を閉じるのは「最終手段」
一時的には楽になりますが、視覚入力を遮断すると、前庭感覚だけが強調され、逆に悪化する人もいます。
車酔いは「弱さ」ではなく、感覚が鋭い証拠
心理学的に見ると、車酔いしやすい人は、
- 感覚処理が繊細
- 環境変化への感受性が高い
- 情報統合を丁寧に行う脳特性を持つ
とも言えます。
これは欠点ではなく、適応の方向性が違うだけです。
おわりに――自分の感覚特性を知るということ
「じぇっとこーすたーみたいに、全部が揃っていれば平気なのに」そう感じたことがあるなら、それはとても鋭い自己観察です。
視覚優位という特性を知ることで、
・なぜ酔うのか
・どうすれば楽になるのか
・どんな環境が合わないのか
が、感情ではなく理解として整理できます。
感覚のクセを知ることは、自分を甘やかすことではなく、自分に合った世界との付き合い方を見つけること。それは、日常を少しだけ生きやすくする、心理学からの現実的なヒントなのです。



コメント