――怒りたくなる気持ちを否定しない子育てのヒント――
「我が子がグレーゾーンかもしれない」
「発達障がいの診断は出ているけれど、どう接すればいいのか分からない」
子育ての現場で、こうした声を本当によく耳にします。
- できないことが多くて、将来が心配になる
- 何度言っても伝わらず、ついイライラしてしまう
- 本当は怒りたくないのに、怒ってしまう自分を責めてしまう
今回は、そんな保護者の方から寄せられる質問に、心理職の立場からお答えしていきます。
「怒ってダメなら、怒らない方がいいの?」
「子どもに言いたいことがたくさんある」
「気になる行動が多すぎる」
これは、決して珍しいことではありません。
むしろ、我が子をよく見ているからこそ出てくる気持ちです。
ただ、その「言いたいこと」を、怒りという形で表現していないか、一度振り返ってみてください。
例えば、こんな言葉をかけていませんか?
- 「早くしなさい!」
- 「もう時間でしょ!」
- 「いい加減に◯◯しなさい!」
では、ここでひとつ大切な問いです。
「怒ったことで、子どもは本当に変わっていますか?」
もし怒ることで子どもが安定して行動できるようになるのであれば、怒ることにも意味はあるでしょう。しかし現実には、こんな結果になっていないでしょうか。
- その場では動くが、すぐ元に戻る
- 親子関係がギスギスする
- 家庭の雰囲気が悪くなる
- 子どもが舌打ちをする、暴言を吐く
- 自室にこもってしまう
もしこうした状況が起きているなら、
怒った結果、事態は良くなるどころか悪化している可能性があります。
「何も言わなかった方が良かったのでは…」
そう感じてしまう方がいても、無理はありません。
親は「教育のプロ」ではありません
子どもが学校で問題を起こしたとき、
「親のしつけのせい」と言われてしまうことがあります。
でも、ここで考えてみてください。
親は、本当に「しつけのプロ」でしょうか?
- 何百人もの子どもを育てた経験がありますか
- すべての発達特性に精通していますか
ほとんどの方は、初めて、もしくは初めてに近い子育てをしています。
しかも、子どもの特性や性格は一人ひとり全く違います。
初めてのことに、失敗や戸惑いがあるのは当たり前です。
「みんなできているから、自分もできるはず」という考え方の方が、むしろ不自然です。
子育ても仕事と同じです。
- 最初は誰でも一年生
- 完璧である必要はない
- 失敗しながら身につけていくもの
親もまた、「親業」をしながら成長していく存在です。
子どもへの「具体的な声かけ」を考えてみる
「怒らない方がいいのは分かったけど、
じゃあ何も言わなくていいの?」
そう感じる方も多いでしょう。
もちろん、気になる行動をすべて放置する必要はありません。
大切なのは、伝え方を変えることです。
朝、なかなか起きないとき
よくある声かけ:
- 「早く起きなさい!」
- 「いつまで寝てるの!」
この言葉から一日が始まると、
子どもは「朝イチで怒られる世界」に放り込まれます。
では、こんな声かけはどうでしょうか。
- 「今日はすごくいい天気だよ」
- 「気持ちのいい朝だね」
- 「窓を開けてみる?」
- 「昨日予想してた天気、当たってるかな?」
そんな言葉と一緒に、そっとカーテンを開ける。
どちらが「起きてみようかな」と思えるでしょうか。
ゲームをなかなかやめないとき
ありがちな声かけ:
- 「いつまでゲームやってるの!」
- 「いい加減にしなさい!」
これを、こんな風に変えてみます。
- 「今のプレイ、上手だったね」
- 「あと1回で終わりにしない?」
- 「ゲームの約束って、何だったかな?」
ここで大切なのは、
「やめさせる」よりも「関係性を保ったまま区切る」ことです。
返報性の法則(返報性の原理)を知る
ここで、心理学の考え方をひとつご紹介します。
それが 返報性の法則 です。
これは、
「人は、相手から受け取った感情や態度を、同じように返しやすい」
という心理のことです。
返報性には、主に次のような種類があります。
- 好意の返報性
- 敵意の返報性
- 譲歩の返報性
- 自己開示の返報性
例えば、
- いつもお土産をくれる人に、自分も返したくなる
- 「いいね」をくれる人に、こちらも「いいね」したくなる
これらはすべて、好意の返報性です。
子育てでも同じです。
- 怒りをぶつければ、怒りが返ってくる
- イライラを向ければ、イライラで返される
子どもが反抗的になるのは、「性格の問題」だけではありません。
向けられた感情に反応している場合も多いのです。
「言い換え」よりも大切なこと
ただし、ひとつ注意してほしいことがあります。
子どもが求めているのは、
取り繕った優しい言葉ではありません。
特に感受性の強い子どもは、
- 本心ではない言葉
- 無理に作った優しさ
を、驚くほど敏感に見抜きます。
そのため、
「怒りを抑えて、きれいな言葉に言い換えなきゃ」
と無理をすると、かえってうまくいかないこともあります。
大切なのは、保護者の心に自然に湧いた“愛情発の言葉”を選べる状態でいること。
そのためには、
- 完璧な声かけを目指さない
- うまくできない日があっても自分を責めない
- 「今日もよく頑張ってる」と自分に言ってあげる
そんな保護者自身の心構えが、何よりも大切です。
最後に
グレーゾーンや発達特性のある子どもとの関わりは、「正解探し」になりがちです。
でも本当は、
- 怒ってしまう日があってもいい
- うまくできない日があってもいい
- 試行錯誤している時点で、十分頑張っている
子育ては、関係性を育てる長いプロセスです。
今日できなかったことが、明日、来月、来年、ふとできるようになることもあります。どうか、保護者の方自身が「もう十分やっている」ということを、忘れないでください。
必要なときは、支援を頼っていい。一人で抱え込む必要はありません。
あなたの子育ては、決して間違っていません。



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