『すずめの戸締まり』感想|日本の記憶と喪失に触れる静かなロードムービー

映画感想

※本記事はネタバレを含みます。

基本情報

項目内容
公開年2022年
監督・脚本新海誠
音楽RADWIMPS、陣内一真
上映時間約122分
ジャンルアニメ / ファンタジー / ロードムービー / ヒューマンドラマ
主題テーマ喪失・再生・土地の記憶・祈り・災害と向き合うこと

本作は、新海誠監督が『君の名は。』『天気の子』に続いて制作した長編アニメーション映画。
日本各地を巡るロードムービー形式を取りながら、「土地の記憶」「災害」「祈り」という、日本社会に深く根ざしたテーマを描いた作品です。

あらすじ(ネタバレ控えめ)

九州で暮らす高校生・すずめは、ある日「扉を探している」という青年・宗像草太と出会います。
彼を追って山の廃墟に足を踏み入れたすずめは、ぽつんと佇む不思議な扉を見つけます。

その扉は、災いへと繋がる入口でした。

日本各地に現れる“後ろ戸”。
それを閉めるため、すずめは草太と共に日本を縦断する旅へ出ることになります。

しかしその旅は、単なる災い封じではなく、
過去と向き合う旅
失ったものと向き合う旅
でもありました。

そしてすずめは、やがて自分自身の記憶と深く対峙することになります。

はじめに|前情報ゼロで観たからこそ、心に残ったもの

前情報ほぼゼロの状態で『すずめの戸締まり』を鑑賞しました。
結果から言うと、「緩急のつけ方がとても上手い作品」でした。

物語の大きなうねりと、幕間に差し込まれる日常の穏やかなシーン。そのコントラストが心地よく、特に何気ない時間――そうたのお部屋を訪れる場面や、芹沢くんと車で移動するドライブシーンが、じんわりと胸に染みました。

観終わったあとに残ったのは、派手なファンタジーを見た高揚感というよりも、「静かに触れられた記憶」のような感覚。
この作品は、間違いなく“日本の物語”でした。

東日本大震災という題材を、真正面からではなく「生活の延長」で描くということ

鑑賞中に気づいたのですが、本作の根底にあるテーマは、東日本大震災です。
ただしそれは、直接的な描写や説明で語られるものではありません。

・失われた土地
・人がいなくなった場所
・そこに残された「想い」
・忘れてはいけないけれど、ずっと抱え続けるにはあまりにも重たい記憶

そういったものを、「扉」「ミミズ」「要石」「常世」といったファンタジーの装置に変換しながら描いているのが、この作品の大きな特徴だと感じました。

震災という現実を、そのまま映像化すると、どうしても観る側の心を強く揺さぶります。
けれど『すずめの戸締まり』は、死後の世界や土地の守り神、陰陽師のような祓屋という、日本文化に根付いたモチーフを重ねることで、「向き合うこと」「閉じること」「それでも生きていくこと」を、少し距離を置いて描いています。

ファンタジーでありながら、現実から逃げていない。
このバランス感覚が、とても丁寧だと感じました。

日本らしさが詰め込まれたディテールたち

本作で特に印象に残ったのは、「日本らしさ」があらゆる場面に自然に織り込まれていたことです。

例えば、

  • 家族経営の小さな旅館
  • 地方にある昔ながらのスナック
  • 都心のコンビニで働く外国人店員
  • SNSで話題になって、猫に名前がつく文化

どれも特別な説明はされません。
けれど、「ああ、こういう風景、知ってる」と思わせるリアリティがあります。

日本のアニメ作品は、しばしば“日本らしさ”を強調しすぎてしまうこともありますが、『すずめの戸締まり』は違いました。
それらはあくまで背景として存在し、物語の邪魔をしない。

だからこそ、ファンタジーの世界観の中に放り込まれても、「これは現実と地続きの話なんだ」と、自然に受け入れられたのだと思います。

祓屋という家業と、代々受け継がれる役割の重さ

草太が担っている「戸締まり師」という役割は、どこか陰陽師や修験者を思わせます。
それも、華やかな存在ではなく、ひっそりと、しかし確実に世界を支える仕事

誰かに感謝されるわけでもなく、報われる保証もない。
それでも「やらなければならないこと」として、代々受け継がれてきた家業。

この設定が、とても日本的で、同時に残酷だと感じました。

しかも彼は大学生。
人生の選択肢がまだたくさんある年齢で、「世界を守る役割」を背負っている。

……そうた、大学生かぁ(しみじみ)

この一言に、彼の抱えている重さがすべて詰まっている気がしました。

声優について思ったこと(正直な感想)

主役二人の声優については、正直に言うと、個人的な好みとは少し違いました。

すずめの声はキャラクターには合っているものの、常に明るくキャピキャピしたトーンで話すため、観ている側としては少し落ち着かない感覚になる場面もありました。
感情表現としては正しいのですが、もう少し抑揚の幅があっても良かったかもしれません。

草太についても、ところどころで棒読みっぽく聞こえてしまい、そこが少し惜しかったです。
キャラクター自体が魅力的な分、声の演技で引っかかる瞬間があると、どうしても気になってしまいます。

ただ、これはあくまで「好み」の問題であって、作品全体の完成度を下げるものではありません。

それを全部吹き飛ばす、草太のイケメン力

そんな細かい感想を全部吹き飛ばしてしまうくらい、草太さんのビジュアルが強すぎました。

・黒髪
・長身
・落ち着いた雰囲気
・どこか影のある表情

どう見ても、黒髪ハウル。

そして何より、「すずめさん」呼びが良すぎる。
距離感、礼儀正しさ、年上感、全部が詰まっている呼び方で、これはもう反則です。

私的推しは芹沢くん|軽さの中にある優しさ

この作品での私的最推しは、間違いなく芹沢くんです。

ビジュアルが好みなのはもちろんですが、それ以上に惹かれたのは、彼の「立ち位置」。

・基本は軽い
・深刻になりすぎない
・でも、必要な場面ではちゃんと寄り添う

このバランスが絶妙でした。

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ドライブ中に懐メロを口ずさむシーンも最高で、あの自然体な感じがとても良かったです。イケボで、演技もナチュラルだったので、「これは櫻井孝宏さんあたりかな?」と思っていたのですが……エンドロールを見てびっくり。

まさかの 神木隆之介

まず、「神木隆之介出てたんだ〜」と気づくレベルで存在感が自然だったこと。
そして、声優としての技量が高すぎて、完全にキャラクターとして成立していたこと。

これは本当に感動しました。

ダイジンが可愛すぎる問題

最後に触れずにはいられない存在、それがダイジン。

とにかく、ひたすらに可愛い。
見た目、仕草、声、存在理由、そのすべてが愛おしい。

ただ可愛いだけではなく、どこか哀しさや切なさを孕んでいるのもポイントで、「守り神」という存在の孤独が、彼(彼女?)を通して伝わってきました。

ダイジンを見ていると、「可愛い」という感情と同時に、「放っておけない」という気持ちが自然と湧いてきます。それ自体が、この作品のテーマと重なっているようにも感じました。

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おわりに|閉じることは、忘れることではない

『すずめの戸締まり』は、「失われたものを取り戻す物語」ではありません。
むしろ、「失われたものを抱えたまま、それでも生きていく物語」です。

扉を閉じることは、忘れることではない。
向き合った上で、前に進むための行為。

そのメッセージが、とても静かに、でも確かに伝わってくる作品でした。

派手な展開に目を奪われがちですが、ぜひ、日常のシーンや会話の余白にも注目して観てほしいです。
きっと、観る人それぞれの「記憶」に触れる一作になると思います。

そして改めて言いたい。

ダイジンは、正義。

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