- 発達障がいがある子どもの大学進学 ― 進路選択の土台づくり
- 発達障がいがあっても大学進学はできる
- 充実した高校生活とは何か
- 高校生活の中で育まれる「達成感」
- 大学進学を目指す生徒に求められる力とは
- 「勉強は教えてもらうもの」という意識からの脱却
- 大学受験は「自分との勝負」
- 発達障がいのある子どもにとっての「環境」の重要性
- 「やり抜く力」は受験を通して育てられる
- WISCと学習計画 ― 特性を理解した進路支援
- 学習計画を立てることが苦手な子どもたち
- 学習計画と進捗管理は「大人が担う」
- 熱しやすく、冷めやすい特性への対応
- 難関大学合格につながる理由
- まとめ ― 発達障がいのある子どもの大学進学で本当に大切なこと
- 「できない理由」を探すのではなく、「できる方法」を考える
- 大学進学は「人間的成長」のプロセスでもある
- 子どもの可能性は、環境次第で大きく広がる
発達障がいがある子どもの大学進学 ― 進路選択の土台づくり
大学入試共通テストも終わり、私立大学の受験が本格的にスタートしました。
私立大学の受験を経て、次に控えるのは国公立大学の受験です。
進路指導の現場では、生徒一人ひとりの目標や特性を、本人・ご家族と丁寧に共有しながら、大学進学・就職など最適な進路選択を行っています。
その結果、高校生活の中で「自分は何を学びたいのか」「どんな分野に進みたいのか」を見極めたうえで、大学進学を選択する生徒も年々増えてきました。
その一方で、発達障がいを抱える子どもの大学進学については、今も多くのご相談が寄せられています。
今回は、発達障がいを抱える子どもが大学進学を目指す際に、どのような視点が大切になるのかについてお話しします。
発達障がいがあっても大学進学はできる
「発達障がいを抱える子どもは、大学進学は難しいのではないか」
そう考えている保護者の方は、決して少なくありません。
しかし、それは大きな誤解です。
現在では、発達障がいのある学生への支援体制を整え、大学生活を安心して送れるようサポートしている大学が数多く存在します。
合理的配慮、学習支援、相談窓口など、大学側の理解と支援は年々充実してきています。
ただし、どの大学に進学する場合であっても、入試を突破する必要があるという事実は変わりません。
誰しも、できることなら第一志望の大学に進学したいと思うものです。
では、発達障がいの有無に関わらず、第一志望の大学を目指すためには、どのような高校生活を送ることが重要なのでしょうか。
充実した高校生活とは何か
「充実した高校生活」と聞くと、
・部活動に全力で取り組む
・アルバイトを頑張る
といったイメージを持つ方も多いかもしれません。
もちろん、部活動やアルバイトに真剣に取り組むこと自体は、とても素晴らしい経験です。
ですが、私は「充実した高校生活」とは 目指す進路に向けて積み上げていく高校生活 だと考えています。
大学進学を目指す場合、発達障がいがあってもなくても、
できるだけ早い段階から
・どの分野に進みたいのか
・どの大学を目指すのか
を明確にし、そのために必要な学習計画やスケジュールを組み立てていきます。
目標に向かって日々の行動を積み重ねていくこと。
そのプロセスこそが、結果として「充実した高校生活」につながるのです。
高校生活の中で育まれる「達成感」
では、達成感はどのようにして育まれるのでしょうか。
近年、ゲームやスマートフォンの普及により、「我慢が苦手な子どもが増えている」と指摘されることがあります。
日本大学の脳神経科学の専門家である森昭雄教授も、論文の中でこの点に言及しています。
即時的に快感を得られる刺激に慣れてしまうと、
時間や努力をかけて結果を出す経験が少なくなりがちです。
しかし、本来の達成感とは、
すぐに得られるものではありません。
数年単位で努力を重ね、試行錯誤を繰り返し、
たとえ結果が思い描いた通りでなかったとしても、
「やり切った」という実感は必ず残ります。
中学校時代に、部活動や継続的な取り組みを経験してこなかった子どもは、
この「やり抜く力」が十分に育っていない場合もあります。
だからこそ、大学受験という長期的な目標に向き合う経験は、
学力だけでなく、人としての成長を大きく促してくれるのです。
大学進学を目指す生徒に求められる力とは
では、発達障がいを抱える子どもが大学進学を目指す際、
具体的にどのような力を身につけていく必要があるのでしょうか。
一言で言えば、それは「学力」だけではありません。
大学受験は、知識量を競うだけの勝負ではなく、
自分自身と向き合い、計画を立て、継続し、修正していく力が問われる場でもあります。
この力は、大学進学後、さらには社会に出た後にも直結していく重要な力です。
「勉強は教えてもらうもの」という意識からの脱却
多くの子どもは、
「勉強は先生に教えてもらうもの」
「分からなければ誰かが説明してくれるもの」
と考えています。
しかし、この考え方のまま成長してしまうと、
大人になってから
「教えてもらっていないからできません」
「聞いていないので分かりません」
と、責任を外に置く思考に繋がってしまいます。
大学受験は、こうした意識を変える絶好の機会でもあります。
「まずは限界まで自分で考える」
「自分で調べる」
という姿勢が大切です。
分からない問題に出会ったとき、
すぐに答えを求めるのではなく、
・教科書を見返す
・ノートを確認する
・参考書を引く
・ネットで調べる
といったプロセスを踏むことで、
「自分で解決する力」が少しずつ育っていきます。
大学受験は「自分との勝負」
大学受験は、他人との競争であると同時に、
自分自身との勝負でもあります。
今日は疲れているからやめておこう、
明日まとめてやればいい、
そうした誘惑と毎日向き合うことになります。
特に発達障がいを抱える子どもは、
・集中力の波が大きい
・気分によって行動量が変わりやすい
・一度つまずくと立て直しに時間がかかる
といった特性を持つことがあります。
だからこそ、
「やる気があるときだけ頑張る」のではなく、
やる気に左右されずに学習を継続できる環境づくりが重要になります。
自主学習の中で、
難しい問題に直面しても逃げずに向き合い、
試行錯誤を繰り返す経験は、
大学受験の「合格」だけでなく、
社会に出た後の「生き抜く力」へと確実につながっていきます。
発達障がいのある子どもにとっての「環境」の重要性
発達障がいを抱える子どもは、
決して能力が低いわけではありません。
しかし、
・環境が合っていない
・支援の方向性がずれている
・求められていることが曖昧
といった状況では、本来の力を発揮することが難しくなります。
そのため、大学進学を目指す場合には、
学習内容そのもの以上に、
「どう学ぶか」「誰が伴走するか」が重要になります。
生徒一人ひとりの特性を把握したうえで、
無理のない目標設定と、段階的な達成体験を重ねていくことが大切です。
小さな成功体験を積み重ねることで、
「自分はやればできる」
という自己効力感が育ち、
結果として長期的な目標にも向き合えるようになるのです。
「やり抜く力」は受験を通して育てられる
「やり抜く力」は、生まれつき備わっているものではありません。
環境と経験によって、後天的に育てていくことができます。
大学受験は、
数か月、あるいは数年単位で努力を積み重ねる必要があるため、
発達障がいを抱える子どもにとっても、
この力を育てる大きなチャンスになります。
途中で思うような成果が出ない時期があっても、
適切な支援と伴走があれば、
子どもは少しずつ前に進むことができます。
その積み重ねが、
「結果」だけでなく
「自分はやり切った」という実感を生み出し、
それが次の挑戦への土台となっていくのです。
WISCと学習計画 ― 特性を理解した進路支援
発達障がいを抱える子どもの大学進学を考えるうえで、
特性理解は欠かすことができません。
その際に有効な手がかりとなるのが、
WISC(ウィスク)などの知能検査の結果です。
ここで重要なのは、
「数値で能力を決めつけること」ではありません。
その子どもが、どこでつまずきやすく、どこで力を発揮しやすいのかを理解するための材料として活用することです。
学習計画を立てることが苦手な子どもたち
WISC-IV(ウィスク4)において、
PRI(知覚推理指標)が低めに出る子どもは、
以下のような困難さを抱えやすい傾向があります。
・長期的な見通しを立てることが苦手
・全体像を把握する前に行き当たりばったりになりやすい
・「今、何をどれだけやればいいのか」が分からなくなる
・計画を立てても、進捗管理ができない
その結果、
「やる気はあるのに続かない」
「頑張っているのに成果が出ない」
という状態に陥ってしまうことがあります。
これは、本人の努力不足や怠けではありません。
特性による困難さなのです。
学習計画と進捗管理は「大人が担う」
このような特性を持つ子どもに対して、
「自分で計画を立てなさい」
「自己管理しなさい」
と求めるのは、適切とは言えません。
学習計画の作成から進捗管理までを、保護者や学校が細かく担うことが理想的です。
・年間・月間・週間の学習計画を具体的に可視化
・日々の学習量を明確に設定
・進捗が遅れた場合は、すぐに修正
・モチベーションが下がった兆候を早期にキャッチ
このように、
「計画を立てること」や「管理すること」を生徒任せにせず、
大人が伴走する体制が重要です。
熱しやすく、冷めやすい特性への対応
発達障がいを抱える子どもの中には、
・一時的に強い集中力を発揮する
・急にやる気を失ってしまう
・小さな失敗で心が折れてしまう
といった特性を持つ子どもも少なくありません。
だからこそ、
「今日はどこまでできたか」
「次は何をすればいいか」
を日々確認し、
目標を細かく分解することが重要になります。
大きな目標だけを提示すると、
子どもは圧倒されてしまいます。
しかし、
・今日はここまで
・今週はこれだけ
というように目標を小さく設定することで、
「できた」という感覚を積み重ねることができます。
難関大学合格につながる理由
このような支援体制のもとで学んだ生徒の中には、
難関大学への合格を勝ち取るケースも少なくありません。
それは、
特別な才能があったからではなく、
特性に合った学習方法と、継続できる環境が整っていたからです。
計画を立てる力、
進捗を管理する力、
気持ちが折れたときに立て直す力。
これらはすべて、
大学進学後、さらには社会に出た後にも必要となる力です。
大学受験はゴールではなく、
自立に向けた一つの通過点です。
だからこそ、
受験を通じて「できた・できなかった」だけで終わらせず、
そのプロセスそのものを丁寧に支えていくことが大切なのです。
まとめ ― 発達障がいのある子どもの大学進学で本当に大切なこと
発達障がいを抱える子どもの大学進学について考えるとき、
「進学できるか」「合格できるか」という結果に目が向きがちです。
しかし、本当に大切なのは、
その大学進学までの過程で、子どもが何を身につけていくのかという点です。
発達障がいがあるから大学進学は難しい、
一般的なやり方が合わないから諦めるしかない、
そう考える必要はありません。
大切なのは、
・子どもの特性を正しく理解すること
・特性に合った学び方を選択すること
・一人で抱え込ませず、大人が伴走すること
この3つが揃えば、
発達障がいの有無に関わらず、
大学進学は十分に現実的な選択肢となります。
「できない理由」を探すのではなく、「できる方法」を考える
学習計画を立てるのが苦手、
継続が難しい、
気持ちが折れやすい。
これらは決して「怠け」や「努力不足」ではありません。
特性による困難さであり、
環境や支援によってカバーできる部分でもあります。
子どもに足りないものを責めるのではなく、
どんな支援があれば力を発揮できるのかを考えること。
それが、進路支援に関わる大人に求められる姿勢です。
大学進学は「人間的成長」のプロセスでもある
大学受験は、
単なる学力選抜の場ではありません。
・長期的な目標に向かって努力する
・うまくいかない時に立て直す
・自分の弱さと向き合いながら前に進む
こうした経験を通して、
子どもは確実に成長していきます。
たとえ結果が第一志望ではなかったとしても、
そこまでの過程で得た「やり抜いた経験」は、
その後の人生において大きな財産になります。
子どもの可能性は、環境次第で大きく広がる
発達障がいを抱える子どもたちは、
決して可能性が狭い存在ではありません。
むしろ、
適切な支援と理解があれば、
強みを活かしながら、自分なりの道を切り拓いていく力を持っています。
大学進学はゴールではなく、
その先の人生へと続く一つのステップです。
だからこそ、
「合格させること」だけを目的にするのではなく、
自立に向けた力を育てる進路選択を大切にしていきたいものです。


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