それって重症?“上の子可愛くない症候群”とボンディング障害の正しい理解
「上の子が可愛いと思えない」
「下の子ばかりに目がいってしまう」
「抱きしめられると、なぜか嫌悪感が湧いてしまう」
こうした気持ちを抱えながらも、
「母親なのにこんなことを思うなんて…」
「私がおかしいのでは?」
と、誰にも言えず苦しんでいる人は少なくありません。
インターネット上では、こうした状態を「上の子可愛くない症候群」と呼ぶことがあります。
結論から言うと、これは医学的な病名ではありません。しかし、決して軽く見てよい状態でもありません。背景には、産後特有の心身の変化、環境要因、過去の体験など、複数の心理的・生理的要因が重なっていることが多く、中には医療や専門的支援が必要なケースも含まれています。
この記事では、
・「上の子可愛くない症候群」とは何か
・ボンディング障害との関係
・起こる原因と子どもへの影響
・今できる具体的な対処法
・「相談していいサイン」とは何か
について、専門的な視点も交えながら、丁寧に解説していきます。
“症候群”と呼ばれているけれど、病気ではありません
まず知っておいてほしいのは、「上の子可愛くない症候群」は正式な診断名ではないということです。
これはあくまで、
・下の子が生まれたあと
・上の子に対して愛情を感じにくくなった
・拒否的な感情やイライラが強くなった
といった状態を、分かりやすく表現した“俗称”です。
ただし、「病名ではない=放っておいていい」というわけではありません。
この背景には、
・ボンディング障害(ボンディング不全)
・産後うつ病
・強い育児ストレスや環境要因
などが隠れている場合があります。
ボンディング障害(不全)とは?
出産後、多くの母親は子どもに対して「可愛い」「守りたい」「大切にしたい」という感情を自然に抱くようになります。この、親が子どもに向ける情緒的な絆を
【ボンディング(bonding)】と呼びます。
ボンディングは、母性が自然に育っていく過程であり、親子関係の土台となると考えられています。しかし、何らかの理由でこのボンディングがうまく形成されず、
・わが子を可愛いと思えない
・関心が持てない
・拒否的な感情が強い
といった状態が続くことがあります。これをボンディング障害(またはボンディング不全)と呼びます。
実は珍しくない。ボンディングがすぐに芽生えない人は15〜40%
「出産したらすぐに母性が湧くもの」そう思われがちですが、実際にはそうとは限りません。研究では、母性的な感情が芽生えるまでに時間がかかる人は15〜40%程度いると言われています。
つまり、「すぐに可愛いと思えなかった」「愛情を感じるまで時間がかかった」という人は、決して少数派ではないのです。
ボンディング障害が疑われる主なサイン
ボンディング障害の可能性が考えられる状態として、次のような特徴が挙げられています。
子どもへの無関心・養育行動の困難
・抱っこや授乳がつらい
・泣いていても反応できない
・世話を「こなしているだけ」になっている
拒否的な感情や自己否定
・「可愛いと思えない」
・「育てる自信がない」
・「自分は母親失格だ」と感じる
イライラや怒りが強く出る
・些細なことで怒鳴ってしまう
・子どもの存在自体がストレスに感じる
これらが一時的ではなく、長期間続いている場合には、一人で抱え込まず、支援につながることが重要です。
ボンディング障害の原因はひとつではありません
ボンディング障害は、「母親の性格」や「愛情不足」だけで起こるものではありません。主に、以下の3つの要因が複雑に絡み合っていると考えられています。
環境要因
・NICU入院などで産後すぐに母子分離があった
・産後のサポート体制が整っていない
・ワンオペ育児、孤立した育児
・夫婦関係の不和
・パートナーからの暴力や精神的圧力
・未婚や経済的不安
「頼れる人がいない状態」での育児は、想像以上に心をすり減らします。
母親側の要因
・産前産後のうつ状態
・つらい妊娠・出産体験
・過去の流産や死産の経験
・強い不安傾向や完璧主義
・自分自身の被養育体験(親との関係)
特に、
「自分が十分に愛された記憶がない」
「安心できる大人がいなかった」
と感じている人ほど、親になる過程で葛藤が表面化しやすいと言われています。
子ども側の要因
・早産
・病気や障害がある
・育てにくさを感じやすい特性
・望まれない性別だった
これは決して「子どもが悪い」という意味ではありません。育児のハードルが高い状況に置かれることで、親の心が追いつかなくなることがある、ということです。
放置するとどうなる?長期的な影響
ボンディング障害が長く続くと、親子のコミュニケーションがうまくいかず、児童虐待につながるリスクが高まることが指摘されています。
また、子ども側にも、
・安定した愛着が形成されにくい
・人との信頼関係が築きにくい
・情緒不安定になりやすい
・問題行動が目立つ
といった、長期的な影響が出る可能性があります。だからこそ、「気のせい」「そのうち治る」と我慢し続けるより、早い段階でのケアがとても大切なのです。
大切なのは「お母さんへのケア」という視点
ボンディング障害への対処で最も重要なのは、お母さん自身がケアされることです。
「子どもを可愛がれない自分を治さなきゃ」ではありません。まずは、「こんな状態になるほど、私は頑張ってきた」と認めることから始めてください。
今できる具体的な対処法
医療機関での相談
・気分の落ち込みが強い
・眠れない、食欲がない
・涙が止まらない
こうした症状がある場合は、心療内科や精神科、産婦人科での相談が有効です。産後うつが関係している場合、適切な治療によって回復が早まることも多くあります。
地域資源を頼る
・保健師、助産師の訪問
・子育て支援センター
・家庭支援センター
「話を聞いてもらえる場所がある」それだけで、心の負担は大きく軽減されます。
誰か一人に打ち明ける
完璧な言葉で説明する必要はありません。
「最近つらい」
「可愛いと思えない自分が苦しい」
そう話すだけでも十分です。
出産前後は、誰にとっても揺れ動く時期
妊娠・出産という周産期は、生活も人間関係も、大きく変わる時期です。「親になる」という役割を突然担い、今までの自分ではいられなくなる。そんな中で、心が追いつかなくなることは、決して特別なことではありません。
最後に
「自分の子どもを可愛いと思えないなんて、最低だ」そう自分を責めてしまう人ほど、実はとても真面目で、責任感の強い人です。
今は、助けが必要なサインが出ているだけ。勇気を出して、話を聞いてくれそうな人、つながれそうな場所を頼ってみてください。
あなたは、一人ではありません。



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