──岐阜・飛騨高山で“日常ミステリーの舞台”を歩く
はじめに
『氷菓』は、大きな事件や派手な展開がある作品ではありません。描かれているのは、日常の中にふと生まれる違和感と、それを丁寧に解きほぐしていく時間です。
そんな『氷菓』の舞台である架空の街「神山市」、そのモデルは岐阜県高山市であることが、街並みや建物配置からほぼ明らかです。実際にこの街を歩いてみると、「なぜここが舞台になったのか」が、理屈ではなく感覚として理解できます。
この記事では、
・聖地が登場する話数
・作中のどんなシーンなのか
・現地で感じた空気感
を中心に、初めて聖地巡礼をする人向けの解説としてまとめました。
『氷菓』の原作・受賞歴・アニメ化
『氷菓』は、推理作家 米澤穂信 による小説を原作とした作品で、
〈古典部〉シリーズの第1作目として発表されました。
原作小説について
原作小説『氷菓』は、2001年10月31日に角川書店(当時)より刊行されました。本作は、第5回角川学園小説大賞 ヤングミステリー&ホラー部門・奨励賞を受賞した作品で、米澤穂信先生のデビュー作でもあります。
〈古典部〉シリーズはその後も継続して刊行され、日常の出来事を題材にしながら、論理的な推理と人間関係の機微を描く作風が評価され、
期シリーズとして高い人気を獲得しました。
アニメ化について
原作の人気を受けて、
京都アニメーション によるテレビアニメ化が行われました。
アニメ『氷菓』は、
2012年4月22日から2012年9月16日まで放送され、全22話で構成されています。制作スタッフは以下の通りです。
- 監督:武本康弘
- シリーズ構成:賀東招二
- キャラクターデザイン・総作画監督:西屋太志
- アニメーション制作:京都アニメーション
京都アニメーションは、背景美術やキャラクターの細かな仕草、光や空気感の表現に定評のあるスタジオであり、『氷菓』においても、派手な演出を抑えた日常描写の積み重ねが高く評価されました。
メディア展開と評価
アニメ化にあわせて、2012年1月から『月刊少年エース』にて漫画版が連載開始されています。また、2017年11月3日には、実写映画版『氷菓』(英題:Hyouka: Forbidden Secrets)も公開され、原作・アニメとは異なる解釈で映像化されました。
原作〈古典部〉シリーズは、刊行から20年以上が経過した現在も読み継がれており、累計発行部数は200万部以上とされています。
なぜ『氷菓』は聖地巡礼と相性が良いのか
『氷菓』は、物語の多くが「日常の中の出来事」を舞台に展開されます。そのため、アニメ化にあたっても、実在する街並みや建物を忠実に参照し、現実の生活空間と地続きの舞台設定が採用されました。
原作が持つ論理性と、京都アニメーションの写実的な映像表現が重なったことで、
『氷菓』は実際にその場所を訪れることで、物語をより深く理解できる作品となっています。
喫茶去かつて|喫茶一二三
登場話数:第10話・第11話
入須先輩が奉太郎を呼び出した、あのお茶屋さんのモデル。外観は作中とほぼそのままで、建物の佇まいだけで、空気が一気に引き締まります。
この場所は、『氷菓』の中でも特に緊張感のあるシーンの舞台。入須先輩の言葉の圧、沈黙の重さ、「お茶でもどう?」という形式的なやさしさ。それらがすべて、この静かな和風建築の中で成立していることが、実際に訪れるとよくわかります。
二人が座った座敷は一階にありますが、訪問時お客様がいたので撮影は控えました。
また、毎年生き雛祭りの日だけ、看板を『喫茶一二三』にしてくれるというファンにとっては嬉しいサプライズがあるみたいです。あいにく私が行ったときはリサーチ不足で、逃してしまいました。







喫茶バグパイプ|喫茶パイナップルサンド
登場話数:第3話
アニメ第3話で千反田が奉太郎に頼み事をしたカフェです。
千反田がウィンナーココアを飲むシーンで印象に残っている人も多いはずです。席はふたりのすぐ隣に案内され、関谷純の話をしないといけない気がしてしまう、不思議な没入感。
外観も店内もそのまま、注文したウィンナーココアはカップまで同じ柄なので、作品の世界に入り込んだ気分でした。ファンによるノートや、原作者の米澤穂信先生のサインがあったりと、氷菓ファンにとって大切な場所になっていました。









日枝神社|荒楠神社
登場話数:第20話、オープニング
十文字さんの家でもある、荒楠神社。
『あきましておめでとう』も大好きなエピソードの一つ。閉じ込められた納屋と同じものはありませんでしたが、似たような建物はありました。それ以外の神社の外観はそっくりでした。













高山市図書館|神山市図書館
登場話数:第18話
高山市図書館 煥章館が、第18話で奉太郎とえるが行った図書館です。
申請をすれば室内も撮影できるようですが、外観だけ。『連峰は晴れているか』は何度も見たお気に入りのエピソードです。



宮川朝市エリア
登場話数:第1話/第11話/オープニング全編
高山駅周辺から宮川朝市にかけてのエリアは、『氷菓』のOPで何度も登場する、いわば「神山市の日常の原風景」。奉太郎、千反田、摩耶花、里志の4人が歩く橋や川沿いの道、交差点は、事件が起こる場所ではありません。どれも事件とは無関係な、ただの日常の風景です。それでもここは、「物語が始まる前の空気」を感じられる重要な場所です。
実際に訪れて印象的だったのは、作中で4人が渡っていた橋が、水害によって流され、現在は根元しか残っていないこと。時間は確実に流れ、街は変わっていきます。それでも、この場所が今も“聖地”として語られていることに、作品と街の強い結びつきを感じました。






宮川沿いの道
登場話数:第1話/第2話/回想シーン
宮川沿いの道は、作中で何度も背景として使われています。
奉太郎が省エネ主義でいられるのは、こうした「考えながら歩ける道」があるからなのでは、と感じました。観光客で賑わう時間帯でも、少し視線を外すと、アニメと重なる静かな瞬間が訪れます。
弥生橋からは、オープニングのタイトル文字が入る川がそっくりそのまま見えます。




鍛冶橋
登場話数:第1話/オープニング全編/回想・背景カット多数
鍛冶橋は、『氷菓』のオープニングを語る上で、欠かすことのできない場所です。宮川に架かるこの橋は、奉太郎・千反田・摩耶花・里志の4人が並んで歩くカットをはじめ、神山市の日常を象徴する風景として、繰り返し描かれています。


高山市内交差点
登場話数:第1話/第4話/オープニング
市内を散策していると、おもむろに見覚えのある風景が飛び込んできます。第1話エンドロールや第4話で奉太郎と里志が分かれるシーンのカットで登場する鍛治屋橋交差点。第1話のエンドロールで奉太郎と里志が傘をさして立っていた、やよいそば前交差点がそのまま存在していました。
高山市内の何気ない街角が、神山市そのものとして描かれています。






水無神社|「生きびな祭」の終着点
登場話数:第22話「遠まわりする雛」
飛騨高山を訪れたのは2025年4月3日。アニメ第22話「遠まわりする雛」で登場した聖地、*水無神社*で実際に生きびな祭りが行われた日です。
この場所は、高山市中心部から少し離れ、JR高山本線・飛騨一之宮駅が最寄り駅となります。高山駅から一駅という距離でありながら、街の雰囲気はぐっと静かになり、「物語の最終章に向かう場所」として、とても象徴的です。
第22話は、『氷菓』という作品の中でも、特に印象深いエピソードのひとつです。
舞台となるのは、水無神社で行われる生きびな祭。この回で描かれるのは、派手な推理でも、鮮やかな解決でもありません。
・伝統行事の裏側
・守られてきた役割
・本人の意思とは別に決められていく立場
そして、千反田えるが初めて、自分自身の立場と向き合う物語です。だからこそ、この水無神社は、「事件の舞台」というより、感情が静かに動く場所として強く記憶に残ります。
今回の旅では、実際に水無神社の生きびな祭に足を運びました。ルート上には多くの人が集まり、行列を見守っています。最後は境内で、華やかな衣装に身を包んだ生きびな役の人たちを迎え入れます。不思議なことに、お祭り全体の空気はとても静かで、厳か。それは、「見せるための祭り」ではなく、受け継ぐための行事だからなのだと感じました。アニメで描かれていた通り、この祭りは、ただ華やかなだけのものではありません。




現地で役立つ公式「聖地巡りマップ」とモデルコース紹介
飛騨高山では、『氷菓』のゆかりの場所を巡るための 公式舞台探訪マップ が無料で配布されています。このマップは、アニメに登場する場所やモデルになったスポットを網羅しており、初心者の聖地巡礼にも安心して歩ける構成になっています。
配布場所は、JR高山駅の観光案内所、中橋観光案内所、アンテナショップ「まるっとプラザ」などです。
また、飛騨高山観光公式サイトには 「アニメ『氷菓』聖地巡り1泊2日の旅」 というモデルコースが紹介されていて、主要スポットを効率よく巡るプランも提示されています。
このモデルコースでは、以下のような場所が巡礼ルートになっています:
📍 JR高山駅
📍 鍛冶橋交差点
📍 飛騨高山宮川朝市
📍 古い町並(上三之町)
📍 喫茶去 かつて
📍 高山市図書館 煥章館
📍 バグパイプ
📍 日枝神社
📍 臥龍公園 など
→ これらは 『氷菓』作中に登場する/モデルとされる場所と公式認定された巡礼スポットです。

『君の名は。』の聖地(番外編)
岐阜県は、『氷菓』だけでなく、映画『君の名は。』の舞台としても知られています。
高山駅からJR高山本線で北へ向かい、*飛騨古川駅*で下車すると、作中で描かれた風景に出会うことができます。飛騨古川駅は、物語終盤、瀧が三葉を探して訪れる場所として登場します。
駅舎や線路がそのまま使われており、演出で誇張されているわけではなく、ありのままで物語の舞台になっています。




『ひぐらしのなく頃に』の聖地(番外編)
白川郷は『ひぐらしのなく頃に』の舞台としても有名。
雛見沢のモデルとされるだけあって、街並みはそのまま作品の中。
宿泊者だけが味わえる、誰もいない早朝の街並みは、本当に別世界でした。季節ごとに訪れたくなる場所。合掌造りの街並みは、作品の中に入り込んだかのような感覚を与えてくれます。
おもむろに現れた小屋は、古手梨花の家のモデルとされる建物。雰囲気はそのままで、アニメへの没入感が高まります。徒歩移動で展望台とも近接し、アクセス良好です。
城山天守閣 展望台は、雛見沢村の風景を展望する定番のスポットで、梨花が村を見下ろすシーンに重なる絶景が楽しめます。集落全体を見渡せるため、白川郷に訪れたら必ず行ってほしいところです。バスも出ていましたが、私は宿泊していたため、朝早い時間に散歩がてら訪れました。
白川八幡神社は古手神社のモデルとされる場所です。鳥居や神社の雰囲気はアニメの神聖さを感じさせる空間でした。
白川郷全体で、ひぐらしのなく頃にを推しているようでした。グッズもたくさん出ていて、聖地巡礼の案内マップもありました。












おわりに
高山市は、もちろん『氷菓』のために作られた街ではありません。もともとそこにあった日常が物語を生みました。だからこそ今も、街は自然体のまま、聖地であり続けています。静かに歩き、静かに感じる。それが、『氷菓』の聖地巡礼です。
この旅行では二泊三日で岐阜県を堪能したので、他のレポートも別で残したいと思っています。


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