悪魔の証明と責任能力──これは本当に「憑依」だったのでしょうか
作品情報
作品名:死霊館 悪魔のせいなら、無罪。
原題:The Conjuring: The Devil Made Me Do It
公開年:2021年
上映時間:112分
製作国:アメリカ
ジャンル:ホラー/サスペンス
監督:マイケル・チャベス
出演:パトリック・ウィルソン、ヴェラ・ファーミガ
本作は「死霊館」シリーズ第3作目にあたりますが、これまでの心霊現象中心の構成とは異なり、裁判と殺人事件を軸に物語が展開していく点が大きな特徴です。
あらすじ(ネタバレあり)
物語は、少年デイビッドが悪魔に憑依される衝撃的な場面から始まります。彼の体は不自然にねじれ、人格が入れ替わるような言動を繰り返します。その様子を目の当たりにしたウォーレン夫妻は、このケースが極めて危険であると判断します。
やがて、デイビッドの姉の恋人であるアーニーは、悪魔に対して「自分が代わりに憑依を引き受ける」と挑発的な言葉を投げかけてしまいます。その後アーニーは錯乱状態に陥り、職場で口論となった上司を22回刺して殺害するという事件を起こします。
逮捕されたアーニーの弁護側は、前代未聞の主張を行います。「彼は悪魔に憑依されていたため、無罪である」というものでした。
裁判の行方と並行して、ウォーレン夫妻は事件の背後にある“呪い”を追い、やがて魔女による意図的な儀式の存在へと辿り着いていきます。
本作の元になった実際の事件
「悪魔に憑依された」と主張された殺人事件
本作は、1981年にアメリカで実際に起きた事件をベースに制作されています。
事件の当事者は、アーニー・ジョンソンという青年でした。彼は当時、交際相手の家族と同居しており、その家族の少年が「悪魔に憑依されている」と周囲から考えられていました。エド&ロレイン・ウォーレン夫妻は、この少年を実際に調査し、複数の憑依の兆候を確認したと証言しています。
その後、アーニーは職場で口論となった男性を刺殺しました。裁判では、アメリカ史上初めて「悪魔憑依による無罪」が正式に主張された事件として注目を集めました。
結果として、悪魔憑依そのものは法廷では認められませんでしたが、被告の精神状態が考慮され、減刑という形で判決が下されています。
悪魔の証明は、司法の場で成立するのでしょうか
「悪魔のせいなら、無罪。」
この主張は、科学的に見ればほとんど成立しません。なぜなら、悪魔の存在は証明も反証もできない、いわゆる“悪魔の証明”だからです。
一方で、裁判では被告人や証人が「神に誓う」ことを当然のように求められます。科学的証拠を重視する司法の場で、宗教的な儀式が形式として組み込まれている――この矛盾を突いた弁護側の主張は、確かに一理あると感じました。
本作が描いているのは、オカルトと科学の対立ではなく、司法が内包する信仰と理性の曖昧な境界なのだと思います。
憑依か、精神疾患か
22回刺した理由をどう考えるか
個人的には、「悪魔に憑依されていたから殺害に至った」という説明だけでは、22回という刺傷の回数を十分に説明できないように感じました。
そこには、怒りや恨み、被害妄想といった人間側の感情が確実に存在していたのではないでしょうか。
アーニーの真っ白な顔色、焦点の合わない目、錯乱した言動は、確かに憑依と解釈することもできますが、同時に重度の精神疾患の症状にも見えます。
最初に異変が起きた弟の描写について
最初に異変を起こした弟の存在も、非常に象徴的です。発達特性がありそうな描写に加え、引っ越しという大きな環境変化が重なったことで、二次障害として精神症状が表出したと考えることもできそうです。
「頭の中にあいつがいる」という表現は、統合失調症に見られる幻聴や自我障害と非常によく似ています。ふたりが同じ言葉で“憑依体験”を語っている点も、心理的な連鎖を感じさせる描写でした。
減刑という判断
日本でいう「心神喪失」との共通点
最終的にアーニーが減刑された点は、日本でいう心神喪失・心神耗弱に近い判断だったように思えます。表向きには「悪魔憑依」が語られていますが、実質的には「正常な判断能力が著しく低下していた状態での犯行」として扱われたのではないでしょうか。
オカルトの装いの裏に、非常に現実的な司法判断が透けて見える点が印象的でした。
気になった小ネタ・細かいポイント
・地下水道でエドが激しくハンマーを振り回している場面では、「先に祭壇へ行けば良いのでは」と思いましたが、実際にそうしてくれました。
→ ただし、魔女がいなかった点は大きな疑問です。
・死霊博物館で、ジュディの部屋にあったカラフルな照明がコレクションに加えられていたのも印象的でした。
→ アナベルの悪魔の影が映ったためでしょうか。
・この時代のアメリカ映画では、モーテルの登場率が非常に高い印象です。
・ソケットの使い方を毎回学べるのは、もはやシリーズの様式美だと感じました。
・ウォーレン夫妻の能力を確かめる場面で、 警察官たちが賭けをしているのは小ネタとして面白かったです。
・吹き替え版限定かもしれませんが、元神父の声が妙に籠って聞こえる点が気になりました。
・弟くんの「お姉ちゃん」という台詞が、劇中のテレビの台詞と重なって聞こえたように感じたのも印象に残っています。
まとめ
これは「悪魔」の映画ではなく、「人間」の映画です
『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』は、幽霊よりも人間の心のほうが恐ろしい映画でした。
悪魔は本当に存在したのでしょうか。それとも、人間の心が生み出した物語だったのでしょうか。答えは示されません。だからこそ、観終わったあとも考え続けてしまいます。
ホラーであり、心理劇であり、司法ドラマでもある。シリーズの中でも、特に異質で記憶に残る一本だと感じました。
映画公式サイトはこちら。



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