怒ると叱るは天と地ほど違う|人を壊す関わりと、人を育てる関わりの決定的差

心理・考察

――感情の発散か、成長を支える関わりか

「ちゃんと叱っただけです」
「怒ってなんかいません」

子どもへの関わり、部下への指導、パートナーとの会話の中で、こんな言葉を聞いたことはないでしょうか。

けれど実際には、“叱ったつもりで、ただ怒っていただけ”という場面は、驚くほど多く存在します。

「怒る」と「叱る」日本語では似た言葉として扱われがちですが、この二つは目的も、心理的影響も、結果も、まったく別物です。

この記事では、
・「怒る」と「叱る」の決定的な違い
・なぜ人は「叱っているつもりで怒ってしまうのか」
・怒られ続けた人の心に何が起こるのか
・本当に人を育てる「叱り方」とは何か

について、心理学的な視点を交えながら、丁寧に掘り下げていきます。

「怒る」とは何か――感情の爆発という行為

まず、「怒る」とはどんな行為なのでしょうか。

心理学的に見ると、怒りは二次感情だとされています。

その奥には、

・不安
・焦り
・悲しみ
・無力感
・傷つき

といった、処理しきれなかった感情が存在します。

つまり「怒る」とは、相手の行動に反応して、自分の感情を外にぶつける行為です。

怒るとき、人の意識はどこに向いているか

怒っている最中、人はほぼ例外なく、

・自分が不快か
・自分が傷ついたか
・自分が思い通りにならなかったか

という「自分軸」に意識が集中しています。

そのため、

・声が大きくなる
・言葉が荒くなる
・人格否定に近づく
・過去の失敗まで持ち出す

といったことが起こりやすくなります。

これは「相手を正す」行為ではなく、自分の感情を処理するための行為なのです。

「叱る」とは何か――行動に対するフィードバック

一方で、「叱る」とはまったく性質が異なります。

叱るとは、

「相手の行動を修正し、成長につなげるための関わり」

です。

叱るときの意識の向き

叱っているとき、人の意識は、

・この行動のどこが問題だったのか
・どうすれば次はうまくいくのか
・相手は何に困っていたのか

という「相手軸」「未来軸」に向いています。

そのため、

・声量は必要以上に上がらない
・行動と人格を切り離す
・具体的な改善点が示される
・関係性を壊さない

という特徴が現れます。

叱る行為には、冷静さと目的意識が不可欠なのです。

「怒る」と「叱る」の決定的な違い

ここで、両者の違いを整理してみましょう。

項目怒る叱る
出発点自分の感情相手の行動
目的感情の発散行動の修正・成長
焦点人(人格)行動・選択
時間軸過去・今未来
影響恐怖・萎縮理解・納得
関係性壊れやすい保たれやすい

この表から分かるように、
「怒る」と「叱る」は似て非なるものです。

なぜ人は「叱っているつもりで怒ってしまうのか」

多くの人が口にするのが、

「感情的にならないようにしているつもりだった」
「ちゃんと理由を説明した」

という言葉です。

では、なぜそれでも「怒り」になってしまうのでしょうか。

自分の感情を自覚できていない

怒ってしまう人の多くは、自分が今どんな感情状態にあるかを把握していません。

・疲れている
・余裕がない
・不安が強い
・過去の経験が刺激されている

こうした状態で指導や注意をすると、無意識のうちに感情が前面に出てしまいます。

「正しさ」が自分を守ってくれると思っている

「あなたのためを思って」
「社会では通用しないから」

この言葉は、一見正論です。

しかしその裏に、自分が間違っていないと証明したい心理が隠れていることもあります。正しさを盾にすると、自分の怒りを正当化しやすくなるのです。

怒られて育った経験が無自覚に再生される

人は、自分が受けてきた関わりを無意識に再現する傾向があります。

「こういうときは怒られるものだった」
「厳しく言われて育った」

その記憶があると、
叱る=強く言うこと、という誤解が生まれやすくなります。

怒られ続けた人の心に起こること

「怒る」関わりが続くと、相手の内面にはどんな影響が出るのでしょうか。

行動は変わっても、内面は育たない

怒られた人は、

・怒られないようにする
・目立たないようにする
・その場をやり過ごす

といった行動を取るようになります。

一見「言うことを聞く」ように見えますが、これは恐怖回避行動であり、理解や納得ではありません。

自己肯定感が削られていく

怒りは、行動ではなく人格に向かいやすい感情です。

「なんでそんなこともできないの」
「またあなたなの?」

こうした言葉は、「あなたはダメな人間だ」というメッセージとして受け取られます。

その結果、

・自信が持てない
・挑戦を避ける
・失敗を隠す

といった傾向が強まります。

感情を感じないようになる

怒られる経験が多い人ほど、自分の感情を押し殺すようになります。「どうせ言っても無駄」
「感じたらまた怒られる」その結果、感情の表現や自己理解が難しくなることもあります。

本当に人を育てる「叱り方」とは

では、どうすれば「叱る」関わりができるのでしょうか。

まず、自分の感情を整える

叱る前に必要なのは、相手ではなく自分を落ち着かせることです。

・今、自分は怒っているか
・不安や焦りが混ざっていないか

これを自覚するだけで、言葉のトーンは大きく変わります。

行動と人格を切り離す

叱るときは、必ず

×「あなたはいつも〜」
○「今回のこの行動が〜」

という形で伝えます。

人格を守り、修正すべき点だけを明確にすることが重要です。

未来の選択肢を示す

叱る目的は、「次にどうするか」を一緒に考えることです。

・次はどうすればよかったと思う?
・どんなやり方ならうまくいきそう?

問いかけを含めることで、相手は「考える主体」になります。

関係性を壊さない言葉で終える

叱ったあとに、

「期待しているからこそ言った」
「あなたならできると思っている」

この一言があるかどうかで、受け取られ方は大きく変わります。

叱るとは「支配」ではなく「伴走」

「怒る」と「叱る」の最大の違いは、立ち位置にあります。

怒る人は、相手の上に立とうとします。

叱る人は、相手の隣に立とうとします。叱るとは、相手をコントロールすることではありません。相手が自分で考え、選び、成長していくための伴走です。

おわりに

もしこれまで、「叱っているつもりだったけれど、怒っていたかもしれない」そう感じたなら、それはあなたが悪いわけではありません。多くの人が、怒られながら育ち、怒り方しか教わらなかったのです。

でも、今からでも遅くありません。「怒る」と「叱る」の違いを知ることは、相手を守るだけでなく、自分自身の心を守ることにもつながります。感情をぶつける関係から、成長を支え合う関係へ。その一歩として、今日の関わり方を少しだけ見直してみてください。

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