正直、ロビー活動や銃が身近ではない日本に住む私にとっては、はじめはよくわからないまま物語が進んでいった。それでも、美しくて強いエリザベスは見ていて気持ちがよく、ラストはすっかり彼女のとりこになっていた。
あらすじ
敏腕ロビイスト、エリザベス・スローン(ジェシカ・チャステイン)は、銃所持を後押しする仕事を断って、大会社から銃規制派の小さな会社に移る。卓越したアイデアと決断力で、困難と思われていた仕事がうまくいく可能性が見えてきたが、彼女のプライベートが暴露され、さらに思いも寄らぬ事件が起こり……。
冒頭こそ最大の伏線
ラストを観てから、冒頭の主人公エリザベスの台詞
「ロビー活動は予見すること。敵の行動を予測して、対抗策を考えること。勝者は、敵の一歩先を読んで計画し、自分の手を見せるのは、敵が切り札を使った後。相手の不意を突いても、自分が突かれてはだめ」
が、この物語の全てであったのだと気がつく。
銃規制法案を成立させようとする小さなロビー会社【ピーターソン=W】にスカウトされたエリザベスは、その夜、彼女の片腕であるジェーンに電話し「ソクラテスが何も書いてないのなら、どう民衆を惹きつけたの?」と問う。
その答えは劇中では描かれておらず、この飛ばされた場面こそが重要で、エリザベスの周到な計画はここから始まっていた。
翌朝、エリザベスは上院倫理委員会に出す書類にサインし、ジェーンに渡す(これがラストで使った書類)。大学に戻りたがっていたはずのジェーンは何故かその場に残り、エリザベスは何人かの部下を引き連れ、会社を後にする。
【ピーターソン=W】でも、勝つためにはどんな手段でも使い、時には同僚の過去まで持ち出し、次第に今の仲間から不信感を持たれてしまう。
その上追い込まれるように、前の会社でエリザベスが行った違法行為の証拠をジェーンに見つけられ、
聴聞会が開かれることとなり、冒頭の時間軸に戻る。
彼女の本当の敵は…?
エリザベスは聴聞会の最後に意見を述べる機会を与えられる。
そこで、自分の非を認めた上で、アメリカの政治が腐敗していることを批判し、
ロビー活動の持論を語る。
そして、その場にいた議員とかつての上司コナーズの不正取引の現場の証拠を突きつけ、
エリザベスが偽証罪を負うのと引き換えに、銃規制法案賛成派が大逆転勝利をおさめる。
エリザベスが自論を語り出したところで、ジェーンはコナーズに封筒を渡す。そこには辞令と共に、エリザベスがシュミットに初めて会ったとき彼から渡されたメモが入っていた。
「勝つ能力以外に信じるものは…」と走り書きされたメモの裏には、「ピーターソン=Wが支払う報酬額は0ドル」と書かれている。
それはロビー活動の汚さにウンザリしていたジェーンにとっては信頼におけるものであり、現実から逃げるのではなく、自らの手で現実を変えるために、エリザベスの計画に加担することを決めたのだろう。
エリザベスがこのオファーを受けたのは、キャリアのためでもお金のためでもなかったことが明らかになり、彼女への印象は180度変わった瞬間であった。
最初から、エリザベスの敵はジェーンでも、元同僚たちでもなかった。
彼女の敵は、アメリカの国自体の在り方であったのだ。
エリザベスは孤高のヒロイン
アメリカという国を敵に回し、国の在り方に異議を唱えた勇敢なるエリザベス自身にも焦点を当ててみる。
毎日16時間以上働き、不眠症であるにもかかわらず、精神刺激薬を使用して長く眠らないようにしていたエリザベス。彼女の仕事ぶりは実に有能でパワフルであったが、プライベートでは“孤独”や“苦しみ”といった印象を抱く。
確固とした信念を持ち、無理をしてまでも働く姿から、何がそうさせるのかがとても気になるところなのだが、エリザベスの過去や家族関係が明かされることなかった。
…何もわからないところが、かえって想像を掻き立て、エリザベスという人物をより魅力的に見せていたように思う。
この物語は、ひとりで罪を背負ったエリザベスが出所するシーンで幕を閉じる。
迎えに来る人もおらず、彼女はこれからも独りで生きていくのだろう。
しかし、刑に服している時でさえ、彼女は常に前を向き、目の輝きは失うどころか、今そこにいることも彼女の計算のうちであり、かえって未来への希望に溢れているように思えた。
あのメモに走り書きされた「勝つ能力以外に信じるものは?」
その答えは「正義」なのだろう。
彼女は今も正義のために大きな敵へ戦いを挑み続けているのかもしれない。
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