Amazonプライムビデオで視聴できる洋画『ブレイン・ゲーム』を鑑賞しました。
本作は予知能力というSF的な設定を用いながらも、その本質は非常に現実的で、重く、倫理的な問いを観る側に突きつけてくる作品です。
それは、
「愛を動機とした殺人は、罪なのか、それとも救済なのか」
という問いです。
物語は派手な展開を見せるわけではありません。
しかし、静かに、淡々と積み重ねられていく登場人物たちの選択が、観る者の倫理観を少しずつ侵食していきます。
観終わったあとに残るのは爽快感ではなく、説明のつかない違和感と、不安に近い感情でした。
作品基本情報
- 作品名:ブレイン・ゲーム
- 原題:Solace
- 公開年:2015年
- 製作国:アメリカ
- ジャンル:サスペンス/犯罪/SF
原題である Solace は「慰め」「救済」を意味する言葉です。
このタイトルそのものが、本作のラストで提示される価値観を象徴しているように感じられます。
あらすじ
連続殺人事件を追うFBI捜査官(ジェフリー・ディーン・モーガン)と、その相棒(アビー・コーニッシュ)は、捜査に行き詰まっていました。
犯行は常に一歩先を行き、まるで未来を読まれているかのようです。
そこで彼らは、かつて同僚だったアナリストであり、予知能力を持つクランシー博士(アンソニー・ホプキンス)に協力を仰ぎます。
最愛の娘を白血病で亡くしてから、ひっそりと世間から距離を置いて暮らしていたクランシー。
しかし事件に強く引き付けられるように捜査に加わり、やがて彼は気づきます。
――容疑者(コリン・ファレル)は、自分よりも優れた予知能力を持っている。
ここから物語は、単なる連続殺人事件ではなく、
**「未来が見える者同士の思想の対立」**へと姿を変えていきます。
超能力がなじむ作品
本作の主人公は、娘を白血病で亡くしたあとに医師を辞めたジョン・クランシーです。
彼はリーディング能力によって現場の痕跡を読み取り、犯人を追い詰めていきます。
予知能力といっても、
触れた物や人の過去と未来の断片的な記憶が見えるという力です。
ジョン自身は、この力を「超能力」とは捉えていません。
あくまで
「異常に勘が鋭い人間の延長」
として認識しています。
医師という立場にあったこともあり、彼は常に科学的であろうとします。
感情に流されることを自制し、理性的であろうとする姿勢が、FBIからの信頼につながっている点も印象的です。
少し先の未来を見ながら、最悪の結果を回避するために行動を選択していく。
この戦い方は、異能力者ものとしては定番ではありますが、過剰な演出がない分、非常に現実味があります。
だからこそ、本作の世界観に自然になじんでいるように感じられました。
隠されたギミック
この作品では、主人公ジョンと同じ能力を持ちながら、より強力な力を有するアンブローズが宿敵として描かれます。
アンブローズは自身の能力を使い、苦しみながら死を迎えるはずだった人々を「安楽死」させることで救済しているのだと語ります。
ここで、ひとつ奇妙な場面が浮かび上がります。
ラストの対決で、ジョンが
「彼女は対象外のはずだ。なぜ殺す?」
と問うのに対し、アンブローズはこう答えます。
「もちろん殺さない。彼女は健康だ。君は彼女のために俺を殺すのさ。」
この言葉を丁寧に噛み砕いて考えると、
実は質問への明確な回答になっていません。
結果的には、ジョンが運命を変え、アンブローズが死んだように見えます。
しかしジョンは、運命を変えるような特別な行動を取っていないのです。
つまりアンブローズは、
エンドロールまでの経緯をすべて把握した上で、自分が死ぬ未来を選択していた
ということになります。
能力の格で言えば、ジョンはアンブローズよりも下位です。
ジョンの見ている未来が変わったとしても、それはアンブローズにとって「すでに見えていた未来」に含まれます。
選択権は、常にアンブローズの側にありました。
では、なぜアンブローズは自分が死ぬ未来を選んだのでしょうか。
彼が死ねば、「安楽死による救済」という計画は途絶えてしまいます。
アンブローズの見ていた未来の中には、キャサリンを撃つ未来も存在していたはずです。
しかしそれは、彼自身の信念に反します。
キャサリンを撃たない未来――
それは、アンブローズ自身が撃たれる未来でした。
もし、この映画の出来事すべてが彼の掌の上で進んでいたとしたら。
アンブローズは、自分と同じ能力を持つ者に計画を引き継がせること、
つまりジョンに「救済者」としての役割を託すことこそが、真の目的だったのかもしれません。
ラストに隠された結末
ラストで示されるジョンの回想では、
愛を持った殺人は罪ではなく、救済なのだ
という結論にたどり着きます。
痛みに耐えかね、
「解放してくれ」と泣き叫ぶ娘の姿を前に、
ジョンは娘を苦痛から解放しました。
アンブローズの思想は、
「苦痛を味わう前に救済を与える」というものです。
方法は異なっていても、
ジョンの行為とアンブローズの行為の本質は、少しも変わりません。
娘の死を通して、自分を殺人者として認識し、家族から距離を取っていたジョン。
しかし事件を通して、自分を救済者として再認識したことで、妻との再会を決意します。
そしてアンブローズの見たビジョン通り、
報われない者たちを救済する後継者となっていきます。
アンブローズ自身も語っていたように、彼は普通の家庭で育ち、社会に溶け込んでいました。
ジョンもまた、これから普通の社会生活を送りながら、救済を行っていくのでしょう。
まとめ――静かにゾクっとするバッドエンド
つまりこの作品は、決してハッピーエンドではありません。
殺人者は倒されましたが、
思想は否定されることなく引き継がれ、
救済という名の暴力は、より静かに社会へ溶け込んでいきます。
『ブレイン・ゲーム』は、
人が「正しさ」を信じ切ったときの怖さを描いた、
ゾクっとするバッドエンドの物語でした。




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