――見えないつらさを抱える子どもたちへ、周囲の大人ができること
「朝になるとどうしても起きられない」
「立ち上がると、目の前が真っ暗になる」
「学校に行こうとすると、頭が痛くなって動けなくなる」
このような様子を見て、
「怠けているのでは?」
「気合いが足りないだけでは?」
と受け取られてしまう子どもがいます。
しかし、その背景に起立性調節障害という病気が隠れている可能性があることは、まだ十分に知られているとは言えません。
起立性調節障害は、本人の努力や根性ではどうにもならない身体の病気です。
本記事では、起立性調節障害の仕組みや症状、タイプ、対応のポイントについて、医学的・心理的な視点から丁寧に解説していきます。
自分の力だけではどうにもならない症状
起立性調節障害は、自律神経系の機能異常によって起こる疾患です。
自律神経は、血圧・心拍・体温・消化・呼吸など、生命維持に欠かせない働きを無意識に調整しています。
健康な人では、
- 横になった状態から立ち上がる
- 重力で血液が下半身に移動する
- 自律神経が働き、血圧や心拍数を調整する
という流れが自然に行われます。
しかし起立性調節障害では、この調節がうまく機能しません。
その結果、
- 立ち上がったときに血圧が急激に下がる
- 心拍数が過剰に上昇する
- 血圧や心拍が元に戻るまでに時間がかかる
といった状態が生じ、めまい・立ちくらみ・動悸・倦怠感などの症状が現れます。
重要なのは、
👉 「頑張れば改善する」という性質のものではない
という点です。
思春期に多い理由――成長と自律神経の関係
起立性調節障害は、小学校高学年から中学生に多く見られることが知られています。
この時期は、第二次性徴期と重なり、
- 身長の急激な伸び
- ホルモンバランスの変化
- 心身の成長のアンバランス
が起こりやすい時期です。
実は、自律神経もこの成長の影響を大きく受けます。
身体が急速に大人へと変化する中で、自律神経の調整が追いつかなくなることがあるのです。
また、
- 真面目
- 気を遣いやすい
- 我慢強い
といった性格傾向の子どもがなりやすいとも言われています。
これは「性格が原因」という意味ではなく、ストレスを内にため込みやすい環境的・心理的要因が影響しやすいという理解が適切です。
起立性調節障害の主な症状
起立性調節障害の症状は多岐にわたります。
代表的なものには、
- 立ちくらみ
- めまい
- 朝起きられない
- 頭痛
- 倦怠感・疲れやすさ
- 動悸
- 食欲不振
- 集中力の低下
などがあります。
特に問題になりやすいのが、朝の不調による登校困難です。
実際に、
- 起立性調節障害の子どもの約3分の2が不登校
- 不登校の子どもの約半数が起立性調節障害を合併
しているという報告もあります。
「チェックリスト」だけで決めつけないことの大切さ
起立性調節障害は、他の多くの疾患と症状が似ています。
そのため、
- 血液検査
- 画像検査
- 心電図
などを行い、他の疾患をしっかり除外することが非常に重要です。
中には、
- もやもや病
- QT延長症候群
など、命に関わる疾患が見つかるケースもあります。
「起立性調節障害っぽいから様子を見よう」ではなく、
👉 医療機関での適切な診断が不可欠です。
新起立試験と4つのタイプ
他の疾患が否定され、起立性調節障害が疑われる場合に行われるのが新起立試験です。
この検査では、
- 起立前後の血圧
- 心拍数
- 血圧回復にかかる時間
を測定し、自律神経の調節状態を評価します。
現在、起立性調節障害は以下の4タイプに分類されています。
① 起立直後性低血圧
起立直後に血圧が低下し、回復までに時間がかかるタイプ。
② 体位性頻脈症候群
血圧は保たれるが、心拍数が異常に上昇したままになるタイプ。
③ 神経調節性失神
起立中に急激な血圧低下が起こり、失神に至るタイプ。
④ 遷延性起立性低血圧
起立を続けることで徐々に血圧が低下し、失神するタイプ。
多いのは①②で、③④は比較的少ないとされていますが、経過中にタイプが変わることもあるため注意が必要です。
改善のためのポイント――できることから少しずつ
軽症の場合、生活上の工夫だけで症状が緩和することもあります。
ポイント① 水分と塩分をしっかり摂る
目安は、
- 水分:2L
- 塩分:10g
血液量を増やし、循環を助けることが目的です。
ポイント② 日中は横にならない
ゴロゴロした姿勢が続くと、自律神経が「寝た状態」に適応してしまい、起立がさらに困難になります。
ポイント③ 起立はゆっくり、長時間立たない
急に立ち上がらず、足を動かして血液を戻す工夫が有効です。
ポイント④ ストレスコントロールと周囲の理解
起立性調節障害はストレスで悪化しやすい病気です。
「午後からなら行ける」
「行事や遊びは参加できる」
こうした状態は、本人がサボっている証拠ではありません。
体調が許す範囲で動いている結果です。
不定愁訴と混同されやすい落とし穴
検査で明確な異常が見つからないと、
「不定愁訴」
として扱われてしまうことがあります。
しかし、起立性調節障害はれっきとした身体疾患です。
「気のせい」
「甘え」
と片づけることは、子どもの自己肯定感を大きく傷つけます。
最後に――「信じる」ことが支援の第一歩
起立性調節障害の子どもたちは、
「怠けていると思われること」
「信じてもらえないこと」
に最も傷ついています。
周囲の大人ができる最大の支援は、
👉 「あなたのつらさは本物だ」と信じることです。
理解される安心感は、症状の安定にもつながります。
目に見えない不調だからこそ、
見ようとする姿勢が、子どもを支える力になります。



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