湿地を愛した強かな女性の一生を描く『ザリガニの鳴くところ』

映画じかん

映画『ザリガニの鳴くところ』を鑑賞してきました。

ラストまでのネタバレも含め、感想と考察になります。

物語のあらすじ

1969年、ノースカロライナ州の湿地帯で、裕福な家庭で育ち将来を期待されていた青年の変死体が発見された。容疑をかけられたのは、‟ザリガニが鳴く”と言われる湿地帯でたったひとり育った、無垢な少女カイア。彼女は6歳の時に両親に見捨てられ、学校にも通わず、花、草木、魚、鳥など、湿地の自然から生きる術を学び、ひとりで生き抜いてきた。そんな彼女の世界に迷い込んだ、心優しきひとりの青年。彼との出会いをきっかけに、すべての歯車が狂い始める…

映画公式ホームページより引用

ザリガニの鳴くところ | ソニー・ピクチャーズ公式

原作は大ヒットミステリー小説

動物学者ディーリア・オーエンズによるミステリー小説「ザリガニの鳴くところ」。

不思議なタイトルからは想像もつかない、ひとつの殺人事件をめぐる息詰まるミステリーと、両親に見捨てられながらもノースカロライナの湿地帯でたった一人、自然に抱かれて逞しく生きる少女の物語は全米中の人々の心を掴み、2019年&2020年の2年連続でアメリカで最も売れた本に。

さらに日本でも2021年に本屋大賞翻訳小説部門第1位に輝き、全世界では累計1500万部を超える驚異的な数字を打ち出している。

魅力的な主人公カイア

ヒューマンドラマ色が強く、プラトニックな純愛もありながら、

最後まで観たらやっぱり分類はミステリーで納得。

湿地に生まれ、湿地を愛し、湿地で生き抜いたカイアの生涯が描かれた作品。

ポスターでは主人公の顔が見えなかったが、劇場で対面したカイアの美人さに見惚れた。

湿地の娘と蔑まれ、DV父の元で悲惨な幼少期を送り、殺人の容疑者として裁判にまでかけられたが、最後は自分の力で幸せを掴み取ったカイアには惹きつけられた。

カイアにとっての湿地と、人々にとっての湿地

作中のカイアの視点で見た”湿地”は生き生きとして、豊かな動植物が美しかった。

水面はキラキラと輝き、カイアの家は宝物でいっぱい。

それと対比するように、最初の死体発見のシーンの湿地は薄暗くて泥っぽく、

保安官達が訪れたカイアの家は薄気味悪さがあった。

自然に学んだ価値観

出版社との会食で、カイアの”自然”についての語りを聞き、カイアが犯人だと確信。

「捕食することは生き延びるためにはしかたない」

「自然に善悪はないのかも」

と話すカイア。

自然には倫理観はなく、行為全てが単なる生存戦略であるという価値観は、自然の中で育ったカイアの価値観そのもの。

カイアの行動は全て、生きる為の強かさが根本にあるように思う。

最悪な置き土産

ラストシーンで、テイトがカイアの日記から貝殻のペンダントを発見する。それは、カイアがチェイスを殺したという動かぬ証拠。思いもよらぬカイアの置き土産を見つけたテイトの表情は忘れられない。

作中で一番ゾクっとする場面。

同時に、テイトが可哀想になった。

裁判以降は仲睦まじく過ごし、連れ添ってきたパートナーからの突然の告白。しかももう何も言えなくなってしまってからのことだ。

墓場まで持っていけばいいのにと思いつつ、処分すれば良かったものを大切に保管していたカイアの行動には意味があるように思える。もしかしたら、あの時「1ヶ月後に戻ってきて一緒に花火を見る」という約束を破ったテイトへの仕返しなのかもしれない。

嫌われ者チェイスは可哀想な人

映画を観た人はもれなくチェイスのことが大嫌いになると思う。

しかし、チェイスもまたある意味可哀想な人なのだ。チェイスが最後まで貝殻のペンダントを付けていたこと、それもまた愛されなかったチェイスのなりの愛の形なのかもしれない。

跡取りとして求められた道には自由がないチェイスは、対照的なカイアの生き方に魅せられたのかも。

両親には将来を強要され、”跡取り”として大切にされるも、誰も”チェイス”として見てくれない、そんな孤独を抱えてたのかもしれない。

一人の人として大切にされたことのないチェイス。

自分だけの大切な物(カイア)を隠すけど、大切の仕方がわからない感じにも見えた。

とはいえ、最初から最後までチェイスへは嫌悪感しか抱かなかった。

チェイスが出会ったばかりのカイアの家にズカズカとあがりこんでそこにある物を粗末に扱う様子は、土足で自分のテリトリーに侵入されるような感覚だった。

自己中で無神経な感じにはイライラしたが、カイアにとっては”愛を与えてくれる人”に違いなく、社会経験不足さも相まって、カイアはチェイスを受け入れてしまったのかなと解釈。

チェイスとテイトは共にカイアに愛を与えてくれたが、対照的だった。

家に来た時の反応、ガイアへの態度等、どれをとってもチェイスへは不愉快さと嫌悪しかない。

カイアの生存本能

チェイスが家をぐちゃぐちゃにして、カイアを探し回っている様子を見て、カイアは間違いなく生命の危機を感じたはず

やらなきゃ、やられる。生きるために敵を排除する。

そうしてカイアはチェイスを殺したのだろう。

思えば、カイアの父親は「いなくなった」と表現されただけで、顛末がわからないようになっている。

もしかしたら、生き抜くためにカイアが父親を手にかけた可能性もある。

さらに、裁判終了直後、カイアが一度お腹をさするようなアップがあった。チェイスの子を妊娠していたのではないか。だからカイアはすぐに留置所から出たがったのかも。

そして裁判後、すぐにテイトと復縁している。…おそらくチェイスの子は、テイトの子として産んだのだろう。生きるために最後まで隠し通したと思うとゾッとするが、郭公の托卵の如く、それもまた自然に教わった生存本能なのかも。

最後に

ぜひ鑑賞をオススメしたい一作。

生き方や、女性の強かさを改めて考えさせられ、カイアの一生に魅せられる最高の作品だった。

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