他人の人生を生きる『ある男』とは何者か?

映画考察

日本アカデミー賞で今年最多となる8つの最優秀賞を獲得したことで話題になっている、映画『ある男』のネタバレ感想と考察です。

日本アカデミー賞受賞作

第46回日本アカデミー賞の授賞式が2023年3月10日、東京都内で行われ、石川慶監督の「ある男」が作品賞、監督賞など計8部門で最優秀賞を獲得

主演男優(妻夫木聡さん)、助演女優(安藤サクラさん)、助演男優(窪田正孝さん)、脚本(向井康介さん)、編集(石川監督)、録音(小川武さん)の各分野でも最優秀賞に輝いた。

8つの最優秀賞獲得はすごい!

あらすじ

 『ある男』は、「第70回読売文学賞」を受賞した平野啓一郎氏の同名小説を、『蜜蜂と遠雷』の石川慶監督が映画化。

弁護士の城戸(妻夫木聡)は、かつての依頼者である里枝(安藤サクラ)から、亡くなった夫・大祐(窪田正孝)の身元調査という奇妙な相談を受ける。

里枝は離婚を経験後、子供を連れて故郷に戻り、やがて出会う「大祐」と再婚。新たに生まれた子供と4人で幸せな家庭を築いていたが、ある日突然夫が不慮の事故で命を落としてしまう。悲しみに暮れる中、大祐の法要の日、長年疎遠になっていた大祐の兄・恭一が訪れ、遺影を見て「これ、大祐じゃないです」と言い放つ。

愛したはずの夫は、名前も過去もわからないまったくの別人だったというのだ。

城戸は、“ある男”の正体を追う中で様々な人物と出会い、衝撃の事実に近づいていくと、いつしか城戸の中にも他人として生きた男への複雑な思いが生まれていく、ヒューマンミステリー。

斬新な設定に豪華なキャスト

斬新な設定からミステリー要素強めをイメージしたが、がっつりヒューマンドラマだった。

ちょい役キャストが豪華過ぎて、どこをメインに観ていったらいいんだろうと混乱する程(良い意味)。

主演もはっきり把握せずに観てたのもあるが、主演が妻夫木聡でも安藤サクラでも窪田正孝でも成り立つくらい濃かった

特にキャスティングが絶妙だったのは窪田正孝。なんとなく焦点が合わない感じとか、堀の深さとか、絶妙な顔のバランスとかいろんなことがマッチして“ある男X”っぽさが作品を深めているように思う。

また、お笑い芸人の小籔も良い味を出していた。最初はお決まりのウザキャラで似合うなぁとしか思わなかったけど、終始しんみりギスギスした感じのストーリーだったからか、この作品の中にいてくれて助かったかもしれない。

余談だが、柄本明が出てきた時、なんとなくテンションあがってしまった(安藤サクラの義父なので!)

理想の母親像

里枝(安藤サクラ)の母親像がまさに理想的だった。

思い返せば長男くんは、両親の離婚、弟の病死、遠方への転校、父の事故現場に遭遇していて、生育環境は不安定極まりないのに、不思議と「この子は大丈夫そうだな」と思えた。

母親に苗字が変わることを複雑に思う気持ちを伝えたり、父がいなくなって寂しいと話して泣いて吐き出すことができていて、それもきっとこれまで母親が寄り添って来たからなんだろうなという印象。

何より、真実を知った長男くんの言葉には脱帽。「父さんが子どもの時にしてもらいたかったことをしてくれていた」ことに気づけること自体が本当に凄い。

絵画が示すもの

冒頭に登場した絵画には「窪田くんが誰かになりすましていることの象徴なのかな〜」とぼんやりとした印象を持っていた。

それが最後に絵画が出てきた時、妻夫木の後ろ姿と合わさってしっくり来る感じにゾワっとして、こんなに解釈が変わることがあるんだと、良い意味予想を裏切られて良かった。

変えられないものに苦しむ2人

振り返ってみれば、城戸(妻夫木聡)と大祐(窪田正孝)の境遇はとても似ている。

城戸(妻夫木聡)は”在日韓国人であること

大祐(窪田正孝)は”犯罪者の息子であること

二人とも、自分の意思で変えられない事実を背負っている。

生きる場所によっては思わぬハンデにもなり得るもの。そんな理不尽さに振り回され、もがいている姿は観ていて苦しくなる。「自分は何者か」というのは、生まれ持った戸籍や親よりも、これまで自分が過ごしてきた時間を大切にしたいと思えた作品。

まとめ

“自分”を構成するもの、何を持って”自分”とするのか、考えさせられる。

今の自分を振り返るきっかけになると思うので、ぜひ色んな人に観てもらいたい一作。

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