ひとくちに「心理士」と言っても、実はその資格にはさまざまな種類があります。
臨床心理士、公認心理師、認定心理士、メンタルケアカウンセラー、産業カウンセラー……。
心理に関わる資格は数多く存在し、それぞれ立ち位置や役割が異なります。
なお、公認心理“士”ではなく、公認心理“師”です。
ここ、意外と間違えられやすいポイントなので要注意です。
この記事では、
- 公認心理師とはどんな資格なのか
- 臨床心理士とは何が違うのか
- これから心理職を目指すならどちらを取るべきなのか
といった点について、制度の背景や現場感覚も交えながら詳しく解説していきます。
公認心理師とは
公認心理師とは、日本で初めて誕生した「心理職の国家資格」です。
2015年9月9日に公認心理師法が成立し、2017年9月15日に同法が施行されたことにより、制度として正式にスタートしました。
それまで日本における心理職は、臨床心理士を中心とした民間資格によって支えられてきました。臨床心理士は長い歴史と実績を持ち、医療・教育・福祉など幅広い分野で活躍してきた資格です。しかし一方で、「国家資格ではない」という点が、心理職全体の立場を不安定にしてきた側面もありました。
医療や福祉の現場では、多くの専門職が国家資格として位置づけられています。医師、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などがその代表例です。その中で、心理職だけが民間資格にとどまっていたことは、専門職としての役割や責任の範囲を曖昧にし、雇用条件や待遇に差が生じる原因にもなっていました。
公認心理師制度は、こうした状況を是正するために作られた資格です。国家資格化によって、心理職の専門性を国が一定の水準で保証し、社会的な信頼性を高めることが大きな目的とされています。
公認心理師の業務内容は、公認心理師法の中で次のように定められています。
・心の問題を抱えている人に対して、面接や観察を行い、心理状態を把握する
・心理に関する検査や評価を行う
・その人が抱える問題について、相談や助言、援助を行う
・本人だけでなく、家族や関係者など周囲の人に対しても支援を行う
・心の健康に関する知識や情報を社会に発信し、啓発を行う
ここで重要なのは、公認心理師の役割が「カウンセリングをする人」に限定されていない点です。本人への直接支援だけでなく、家族、学校、職場、地域といった環境全体への働きかけも含まれています。心理的な問題を個人の内面だけで完結させず、関係性や社会構造の中で捉える視点が、制度の段階から組み込まれていると言えるでしょう。
また、公認心理師は「心の健康についての情報発信」を担う専門職でもあります。これは、問題が深刻化してから支援するだけでなく、予防や早期介入にも関わることを意味しています。従来の心理職は、どうしても「困った人が来てから対応する存在」と見られがちでしたが、公認心理師はそれに加えて、社会全体に向けた啓蒙的な役割を期待されているのです。
実際、2020年度の診療報酬改定では、「小児特定疾患カウンセリング料」において、公認心理師が実施する場合の評価が新設されました。これは、公認心理師が医療制度の中で正式に役割を担う存在として認められたことを示す象徴的な出来事です。
この背景には、自閉スペクトラム症や発達障害など、専門的な心理支援を必要とする児童が増え続けている現状があります。一方で、診断や支援を受けるまでに長い待機期間が生じており、医師だけで対応する体制には限界がありました。心理職が制度の中で役割を持つことで、より多くの人に必要な支援を届けることが期待されています。
ただし、公認心理師は比較的新しい資格であるため、現場によっては役割がまだ定まりきっていない部分もあります。
・臨床心理士と何が違うのか分かりにくい
・実際に何ができる資格なのか説明しづらい
・職場によって求められる役割がばらついている
といった声が聞かれるのも事実です。
それでも、公認心理師は「心理職を社会に開く資格」としての性格を強く持っています。専門家同士の閉じた世界にとどまるのではなく、一般の人々にも分かる言葉で心の問題を伝え、支援につなげていく。そのための共通基盤として作られた資格だと考えると、公認心理師の位置づけが見えてくるでしょう。
なぜ公認心理師は国家資格になったのか
背景に公認心理師が国家資格として創設された背景には、日本社会における「心の問題」の変化と、それに対する支援体制の限界があります。これは一部の専門家の要望によって急に作られた制度ではなく、長年積み重なってきた社会的な課題への対応として生まれた資格です。
まず、最も大きな背景として挙げられるのが、精神的な不調を抱える人の増加です。うつ病、不安障害、適応障害といった精神疾患は、もはや特別なものではなく、誰にでも起こりうる身近な問題として認識されるようになりました。実際に、医療機関を受診する患者数は年々増加しており、心の問題は社会全体で向き合うべきテーマになっています。
特に近年顕著なのが、発達障害や神経発達症に関する支援ニーズの高まりです。自閉スペクトラム症や注意欠如・多動症(ADHD)といった特性についての理解が進んだことで、これまで「性格の問題」「育て方の問題」とされてきた困難が、支援を必要とする課題として捉えられるようになりました。
その結果、医療機関や相談機関には多くの相談が寄せられるようになりましたが、ここで問題となったのが「専門的に対応できる人材の不足」です。
・診断を受けるまでに長期間待たされる
・心理検査や評価を担える人が限られている
・医師一人に負担が集中している
といった状況が、各地で生じていました。
本来、心理的な評価や支援は、医師だけで完結するものではありません。面接や観察、心理検査、家族への説明や環境調整など、心理職が専門性を発揮できる領域は多岐にわたります。しかし、心理職が国家資格として制度化されていなかったために、医療制度の中で十分に役割を持てていなかったのです。
こうした問題意識のもと、心理職を医療チームの一員として正式に位置づける必要性が高まりました。公認心理師の国家資格化は、心理職の地位向上だけでなく、医療現場の機能不全を補う役割も担っています。
次に、教育分野における背景も見逃せません。学校現場では、不登校、いじめ、虐待、発達の偏り、家庭環境の問題など、子どもを取り巻く課題が複雑化しています。教師だけで対応するには限界があり、専門的な心理支援の必要性は以前から指摘されてきました。
しかし、スクールカウンセラーや教育相談員として働く心理職の多くは、非常勤や短時間勤務といった不安定な雇用形態に置かれてきました。
・専門性に見合わない待遇
・継続的な支援が難しい配置
・学校ごとに役割が曖昧
といった問題があり、心理職が十分に力を発揮できない場面も少なくありませんでした。
国家資格である公認心理師を制度の中に位置づけることで、教育現場における心理職の役割を明確にし、安定的に配置していく狙いがあります。これは、子どもの問題を個人の努力だけに任せず、社会全体で支える仕組みを作るという意味でも重要な動きです。
さらに、産業分野におけるメンタルヘルス対策の重要性も、公認心理師誕生の大きな要因です。長時間労働やハラスメント、職場の人間関係などによるストレスは、働く人の心身の健康に大きな影響を与えます。メンタル不調による休職や離職は、個人の問題にとどまらず、企業経営や社会全体にも影響を及ぼします。
こうした背景から、企業や産業領域においても、心理の専門家が関与する必要性が高まってきました。ただし、企業が心理職を導入する際にも、「どの資格を基準にすればよいのか」という問題がありました。国家資格である公認心理師は、その判断基準として機能することが期待されています。
一方で、公認心理師の国家資格化に対しては、心理職内部から懸念の声が上がったのも事実です。
・専門性が形式的に均質化されるのではないか
・現場の多様性が失われるのではないか
・臨床心理士の価値が下がるのではないか
といった不安は、決して的外れなものではありません。
実際、公認心理師は「広く心理支援を担う資格」として設計されており、特定の理論や技法に深く偏らない構造になっています。そのため、従来から専門性を深めてきた臨床心理士の立場から見ると、「浅く広い資格」という印象を持たれることもあります。
しかし、公認心理師制度は、臨床心理士を否定したり置き換えたりするためのものではありません。むしろ、心理職全体の裾野を広げ、社会との接点を強化するための制度です。専門性の深化と社会的な汎用性は、本来対立するものではなく、両立が求められるものだと言えるでしょう。
公認心理師が国家資格として誕生した背景には、「心の専門家を、社会の中でどう位置づけるのか」という大きな問いがあります。この資格は、その問いに対する一つの制度的な答えなのです。
公認心理師の役割と特徴
公認心理師の役割は、「心理的な問題を抱える人を支援する専門職」と一言で片づけられるほど単純なものではありません。公認心理師法では、業務内容が比較的広く定義されており、そのことがこの資格の特徴でもあり、同時に分かりにくさの原因にもなっています。
まず、公認心理師の基本的な役割は、心の問題を抱える人に対して、心理学の知識と技術を用いて支援を行うことです。これは、従来の心理職と共通する部分でもあります。しかし、公認心理師の場合、その対象や関わり方がより明確に「社会の中」に位置づけられています。
法律上、公認心理師の業務は次のように整理されています。
・心理に関する支援を必要とする人に対し、面接や観察を行い、心理状態を把握する
・心理検査や分析を行い、その結果を支援に活かす
・問題の解決に向けて、相談・助言・援助を行う
・本人だけでなく、家族や関係者など周囲の人に対しても支援を行う
・心の健康についての知識や情報を発信し、啓発活動を行う
ここで注目したいのは、「本人への支援」だけでなく、「周囲の人への支援」や「情報発信・啓発」が明確に含まれている点です。これは、公認心理師が個人の内面だけを扱う存在ではなく、環境や関係性を含めて心理的問題に関わる専門職として設計されていることを意味しています。
実際の現場では、公認心理師はさまざまな役割を担っています。医療分野では、医師の診断を補助する形で心理検査や面接を行い、患者さんの心理状態や生活背景を整理します。その情報は、治療方針の検討や家族への説明に活用されることも多く、チーム医療の一員として機能しています。
教育分野では、子ども本人へのカウンセリングだけでなく、保護者や教職員への助言、学校全体への働きかけが重要な役割になります。子どもの不調を「本人の問題」として切り離すのではなく、学級環境や家庭環境を含めて捉える視点が求められます。
また、福祉や行政の分野では、虐待や貧困、ひきこもりなど、複合的な問題を抱えるケースに関わることも少なくありません。その場合、公認心理師は心理的な視点から状況を整理し、関係機関と連携しながら支援の方向性を考える役割を担います。
このように見ると、公認心理師の仕事は「カウンセリングをする人」というイメージよりも、むしろ「心理の視点を社会に持ち込む調整役」に近いと言えるかもしれません。
一方で、公認心理師の特徴としてよく挙げられるのが、「専門性が分かりにくい」という点です。業務範囲が広いため、
・何を専門としている資格なのか見えにくい
・臨床心理士とどう違うのか説明しづらい
・職場によって求められる役割が大きく異なる
と感じられることがあります。
これは、公認心理師が「特定の理論や技法に特化した資格」ではなく、「心理支援全般を担う基盤資格」として作られていることによるものです。臨床心理士が、大学院教育を通して特定の専門性を深めていく資格であるのに対し、公認心理師は、さまざまな分野で心理職が共通して持つべき最低限の専門性を保証する役割を持っています。
そのため、公認心理師単体で完結するというよりも、
・公認心理師を基盤として
・現場で経験を積み
・特定の分野や技法に専門性を深めていく
というキャリアの積み方が想定されている資格だと考えた方が理解しやすいでしょう。
また、公認心理師は「心の健康に関する情報発信」を行うことも役割に含まれています。これは、心理的な問題が深刻化してから対応するだけでなく、予防や早期支援にも関わることを意味します。心理教育や啓発活動を通して、社会全体の理解を高めることも、公認心理師に期待されている重要な役割です。
このように、公認心理師は、従来の心理職が担ってきた臨床的な役割に加え、社会との接点を意識した活動を求められる資格です。その広さこそが特徴であり、同時に難しさでもあると言えるでしょう。
臨床心理士とはどんな資格?
臨床心理士は、日本における心理職の中で、長年「中心的な資格」として位置づけられてきた民間資格です。1988年に制度が創設されて以降、医療・教育・福祉といった現場で着実に実績を積み重ねてきました。公認心理師が誕生するまで、心理職を名乗るうえで最も信頼性の高い資格だったと言っても過言ではありません。
臨床心理士の最大の特徴は、専門性の深さにあります。この資格を取得するためには、臨床心理士指定大学院を修了することが必須条件となっており、大学院レベルで体系的かつ集中的に心理臨床を学ぶ必要があります。単に心理学の知識を身につけるだけでなく、実際の臨床場面を想定した訓練や実習を重ねることが求められます。
臨床心理士の業務は、一般に「四大業務」と呼ばれる次の内容に整理されています。
・臨床心理査定
・臨床心理面接
・臨床心理学的地域援助
・調査・研究活動
まず、臨床心理査定とは、面接や観察、心理検査などを通して、クライアントの心理状態や背景を多角的に把握することを指します。単に検査を実施して結果を出すだけではなく、その人の発達歴や生活状況、人間関係などを踏まえたうえで、意味づけを行うことが重要になります。この「読み解く力」は、臨床心理士の専門性の核とも言える部分です。
次に、臨床心理面接は、いわゆるカウンセリングや心理療法を指します。臨床心理士は、特定の技法だけに依存するのではなく、来談者中心療法、精神分析的アプローチ、認知行動療法など、複数の理論を背景に持ちながら、その人に合った関わり方を模索していきます。この柔軟性と深さは、長期間の訓練を通して培われるものです。
臨床心理学的地域援助とは、クライアント本人だけでなく、家族や学校、職場、地域といった環境全体に働きかける支援を指します。心理的な問題は、個人の内面だけで完結するものではなく、周囲との関係性の中で生じ、維持されることが多いためです。この視点は、公認心理師の考え方とも重なる部分がありますが、臨床心理士はより臨床経験に基づいた実践を重視してきました。
最後に、調査・研究活動も臨床心理士の重要な役割です。臨床心理士は「実践家」であると同時に、「研究者」としての側面も持っています。日々の臨床を振り返り、理論と照らし合わせながら検討を重ねることで、支援の質を高めていく姿勢が求められます。
また、臨床心理士資格の特徴として見逃せないのが、更新制度の存在です。臨床心理士は5年ごとに資格更新が必要であり、そのためには研修参加や実績の提出が求められます。この仕組みによって、資格を取得した後も学び続けることが半ば義務づけられており、専門性の維持・向上が図られています。
そのため、臨床心理士は心理職内部からも「専門性の担保された資格」として評価されてきました。特に、個人開業のカウンセリングルームや精神科・心療内科の現場では、臨床心理士資格が重視される傾向が今も根強く残っています。
一方で、臨床心理士は民間資格であるがゆえに、制度的な限界も抱えてきました。
・医療制度の中で明確な位置づけがなかった
・診療報酬の算定対象になりにくかった
・公的機関での採用基準が曖昧だった
といった点は、臨床心理士がどれだけ専門性を高めても、個人の努力だけでは解決できない問題でした。
公認心理師の誕生によって、こうした状況は少しずつ変わりつつありますが、それでもなお、臨床心理士が持つ「専門職としての厚み」は、簡単に代替できるものではありません。臨床心理士とは、心理臨床の歴史と実践を積み重ねてきた資格であり、今後も心理職の中核を担い続ける存在だと言えるでしょう。
公認心理師と臨床心理士の違い
公認心理師と臨床心理士の違いについては、よく
「国家資格か民間資格か」
「新しい資格か、歴史ある資格か」
といった説明がされます。しかし、それだけでは実感としての違いはなかなか伝わりません。
実際の現場では、この2つの資格は対立関係にあるわけでも、上下関係にあるわけでもありません。ただし、求められている役割の質や重心には、はっきりとした違いがあります。
まず、仕事内容そのものを見てみると、両者には大きな共通点があります。
・心理面接を行う
・心理検査や評価を行う
・本人への支援だけでなく、家族や関係機関とも関わる
この点だけを見ると、「何が違うのか分からない」と感じるのも無理はありません。実際、求人票や現場業務のレベルでは、両資格が並列で扱われていることも多くあります。
では、どこに違いがあるのかというと、それは専門性の方向性にあります。
臨床心理士は、心理臨床の専門家として、個々のケースを深く理解し、丁寧に関わることを重視してきた資格です。心理療法や心理アセスメントにおいて、「なぜその反応が起きているのか」「背景にどんな心的過程があるのか」を時間をかけて掘り下げていく姿勢が特徴的です。
一方で、公認心理師は、心理職を社会制度の中で機能させることを強く意識した資格です。個人への深い関わりだけでなく、支援を必要とする人を制度につなぐこと、関係機関と連携すること、予防や啓発に関わることが重視されています。
整理すると、次のような違いが見えてきます。
・臨床心理士
→ 個人の内面や心理過程を「深く」扱う専門職
・公認心理師
→ 心理支援を社会の中で「広く」展開する専門職
この「深さ」と「広さ」の違いは、優劣の問題ではありません。どちらが欠けても、心理支援は成り立たないものです。
制度面での違い
制度面での違いも、両資格の性格をよく表しています。
臨床心理士は、指定大学院を修了することが必須条件となっており、取得までのハードルが高い資格です。また、5年ごとの更新制度があるため、資格取得後も継続的な研修や実績が求められます。これは、専門性を維持・向上させる仕組みとして機能しています。
一方、公認心理師は国家資格であり、法制度や行政との結びつきが強い資格です。更新制度はありませんが、その分、教育課程や国家試験によって一定の水準が担保されています。心理職を「誰が見ても分かる資格」として示す役割を持っていると言えるでしょう。
現場での見られ方
現場での見られ方にも、違いがあります。
医療機関や個人開業のカウンセリングルームでは、今もなお臨床心理士の評価が高い傾向があります。これは、長年にわたる実績と、「心理療法の専門家」というイメージが定着しているためです。特に、長期的なカウンセリングや深い心理的支援を求められる場面では、臨床心理士の専門性が重視されることが多いです。
一方、行政機関や学校、福祉分野では、公認心理師の資格が求められる場面が増えています。国家資格であることから、採用基準として明確に示しやすく、制度との親和性が高いためです。今後は、こうした分野で公認心理師が標準資格として扱われる可能性も高いでしょう。
ただし、ここで注意したいのは、「どちらか一方があれば十分」という話ではないという点です。実際には、
・公認心理師を持ちつつ、臨床心理士として専門性を深めている人
・臨床心理士として臨床経験を積み、公認心理師を取得して活動の幅を広げている人
といった形で、両資格を併せ持つ心理職も多く存在します。
公認心理師と臨床心理士の違いは、「できること」の違いというよりも、「どの立場で、どこに軸足を置いて心理支援を行うのか」という姿勢の違いだと考えた方が理解しやすいでしょう。
どっちを取れば良いの?
結論から言うと、現時点で最も現実的なのは「両方持っている状態」です。
これは綺麗事ではなく、実際の現場で多く見られるキャリアの形でもあります。
すでに心理職として働いている人を見渡すと、
・臨床心理士を先に取得し、後から公認心理師を取得した人
・大学院在学中または修了後に、公認心理師と臨床心理士の両方を取得した人
というケースが非常に多くなっています。特に、制度移行期を経験している世代では、「どちらか一方だけ」では立ち回りにくさを感じている人が少なくありません。
なぜ両方あると有利なのかというと、それぞれの資格が異なる場面で効いてくるからです。
公認心理師を持っていることの強み
まず、公認心理師を持っていることの強みは、制度との相性の良さです。
・行政や自治体での採用条件に合致しやすい
・医療分野で診療報酬との関連がある
・「国家資格」という分かりやすさがある
特に、区役所や児童相談所、学校、保健センターなどの公的機関では、「国家資格であること」が重視される傾向が今後さらに強まっていくと考えられます。採用担当者が心理職の専門的な違いを細かく理解していない場合でも、「公認心理師」という肩書きは説明しやすく、信頼されやすいという現実があります。
臨床心理士を持っていることの強み
一方で、臨床心理士を持っていることの強みは、専門職内部での評価です。
・心理療法や心理アセスメントへの信頼
・臨床経験を積んできた証としての位置づけ
・個人開業やカウンセリング領域でのブランド力
特に、医療機関やカウンセリングルームなどでは、今もなお「臨床心理士であること」が専門性の証として見られる場面が多くあります。長期的な心理支援や、深い臨床的関わりを求められる場面では、臨床心理士としての訓練背景が評価されやすいのです。
ここで大切なのは、「どちらが上か」「どちらが正統か」といった議論ではありません。実際の現場では、制度に強い資格と、臨床に強い資格をどう組み合わせるかが問われています。
現実的なキャリア戦略
現実的なキャリア戦略としては、次のような考え方が多く見られます。
・制度の中で働くために公認心理師を基盤として持つ
・専門性を深めるために臨床心理士としての訓練を積む
・分野やライフステージに応じて軸足を移す
たとえば、若いうちは医療や福祉の現場で幅広く経験を積み、その後、専門性を活かしてカウンセリング領域に進む人もいます。逆に、臨床心理士としての専門性を土台にしながら、公認心理師を取得して行政や教育分野に関わる人もいます。
このように、資格は「固定された肩書き」ではなく、「選択肢を広げる道具」として考えた方が現実的です。
ただし、これから心理職を目指す人にとっては、「両方取ればいい」と言われること自体が負担に感じられるかもしれません。時間もお金もかかる資格であり、簡単に決断できるものではないからです。
だからこそ大切なのは、
・今すぐの正解を探そうとしすぎないこと
・将来の選択肢を狭めない進路を考えること
です。
心理職の世界は、制度も現場も今なお変化の途中にあります。公認心理師という資格が今後どのように定着していくのか、臨床心理士がどのような役割を担い続けるのかは、まだ完全には見えていません。
ただ一つ言えるのは、資格だけで評価される時代ではなくなっているということです。どの資格を持っているか以上に、
・どんな現場で
・どんな経験を積み
・どんな視点で人に向き合ってきたか
が、確実に問われるようになっています。
公認心理師と臨床心理士は、そのための「入口」であり「基盤」です。どちらを持つか、あるいはどう組み合わせるかは、自分自身の働き方や価値観と照らし合わせながら、長い視点で考えていく必要があるでしょう。



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