公認心理師が考察する映画『ファースト・ラヴ』

映画じかん

主人公と同じ公認心理師として働いています。

心理としての目線で観た考察と感想です。

あらすじ

 まずはあらすじから…

あらすじ
川沿いを血まみれで歩く女子大生が逮捕された。殺されたのは彼女の父親。
「動機はそちらで見つけてください。」
容疑者・聖山環菜の挑発的な言葉が世間を騒がせていた。
事件を取材する公認心理師・真壁由紀は、夫・真壁我聞の弟で弁護士の庵野迦葉とともに彼女の本当の動機を探るため、面会を重ねるー
二転三転する供述に翻弄され、真実が歪められる中で、由紀は環菜にどこか過去の自分と似た「何か」を感じ始めていた。
そして自分の過去を知る迦葉の存在と、環菜の過去に触れたことをきっかけに、由紀は心の奥底に隠したはずの「ある記憶」と向き合うことになるのだが…。
(映画『ファーストラヴ』公式サイトより引用)

これまでの風潮

まずはこういった作品に心理職が出てくると、

スピリチュアルに寄りすぎていたり、

犯罪心理でプロファイリングしていたりと、

心理の臨床として一般的ではないこが今まで多かったです。


この主人公は書籍を出版したり、ラジオに出演したりと、

どちらかというと心理士の中でもマイノリティな活動もしています。

一方で、カウンセリングオフィスに所属して継続のケースを持っていることや、

何より目線が完全に心理の目線でした。

感心しながら観ていたのですが、

最後EDのテロップで大妻大学の福島先生監修していたとのこと、納得です。

どんな問題行動でも、行動した本人には本人なりの理由があります。

本人の目線に立ってケース全体を見立てていく姿勢が、まさに心理士でした。

そして、生育歴を丁寧に調査していくところでは、

「もっと聞きたい…!私が質問したい!」と思うくらい

(物語なので詳細はカットされたのでしょう)、聞く観点は間違っていなかったです。

人格形成に一番大事なのは、成育歴

幼少期に大事にしてもらった経験がないと、自分を大事にできません。

養育者と愛着関係が築けなかったことで、

他者との距離の取り方がわからない(初対面でも距離が近すぎる)子になります。

心理学における愛着(attachment)とは、他人や動物などに対して築く特別の情緒的な結びつき、とくに幼児期までの子どもと育児する側との間に形成される母子関係を中心とした情緒的な結びつきという意味でも使われる。

フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

また、性被害を受けた子は適切なケアがなされないと、成長した後に影響が出てきます。


一見、子どもに原因があるように思える問題行動でも、

そこに至る経緯には親との関係が大きく関わってきます。


人間の人格形成においては間違いなく生育歴が1番大切です。

心理師は、どんな環境でどんな両親なのか、本人が語る言葉と、集めた情報を照らし合わせ、

アセスメント(=客観的な評価)していきます。

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カンナさんは愛着障害だった

カンナさんは幼少期から不安定な母親から充分な愛情を受けられず愛着障害だったと考えられます。

さらには思春期ごろの性的虐待(男性の全裸の近く居させられたところ)、

心理的虐待(怒鳴られていたところ)、身体的虐待(押し入れに閉じ込められたところ)があり、

PTSDによるパニック回避行動から自傷行為へと繋がり、

青年期にはパーソナリティ障害を抱えるようになりました。

また、カンナさんの母親も精神的な病気を抱えていた可能性が裁判後のシーンから明らかになります。

カンナさんの話から、母親は父親に支配されており、

母親は自分自身を守るのに精一杯で幼いカンナさんを守ることができなかったことが示唆されます。

さらには、経緯は不明ですが、カンナさんの出生の秘密を本人に話していたことからも、

そうした秘密を抱えることさえできない母親像が浮き彫りになります。

裁判のラストで、カンナさんは涙を流しながら、

絞り出すように、自分の思考を言葉に紡いでいきます。

彼女の考え方は、幼少期の体験から形成されてきたものです。


「裸の男性の隣でデッサンモデルをするのは普通」

「リストカットは気持ち悪い」


「私は嘘つき」


これがカンナさんにとっての常識です。


主人公のすてみタックル

また、主人公のユキ自身もトラウマを抱えており、ケアされずに現在まで来ています。


なのにカンナさんへの取材を通してユキがとった行動はまさにすてみタックル

自己開示によって治療関係を築いた結果、ユキ自身の傷もガバッと開いて大惨事でした。

その後、ユキは全てを知っても受け止めてくれる夫がいたからこそ、乗り越えることができました。

心に傷を負った人でも、支えになる人がいれば乗り越えることができます。

傷の深さや関係性にもよりますが、家族恋人だけでなく、

学校の先生友達でも支えになることができます。

自分が抱えている問題から逃げてしまうのは、心を守るための人間の本能的な反応です。

だからこそ、抱えたまま大人になり、ある時フッと糸が切れてしまうこともあるし、

心の奥にしまったまま生きている人も大勢います。

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結末は何よりもリアル

結果的に、弁護側の主張である無罪は通りませんでした

カンナさんが父親に許してもらおうとして自傷をみせたこと

母親に自傷がバレてはいけないことに必死になったこと公的には認められませんでした


これが今の心理師の限界であるのだと示されたようでした。

“公認心理師”という国家資格が施行されてから約3年経ちますが、

国家資格といえど、まだまだ心理の立場行政や司法の分野では厳しいものです。

ただ、その中でも、ユキが公認心理師として関わったことによって、

カンナさんをカウンセリングし、救ったことは間違いありません。


幼少期、嫌なことを強要してきた父親

求めても助けてくれなかった母親

やっと見つけた安全基地の部屋から追い出したユウジくん

周囲の大人の誰からも受け入れてもらえませんでした。

大学生になっても、寄ってくる男たちは本気で彼女を愛してくれなかったし、

父親からはアナウンサーになることを反対されました。

そんなカンナさんへ、

ユキは「あなたではなく世界や、社会や、そして周囲の人間が間違っている」と伝えます。

カンナさんはここで初めて自分自身を認めてもらう体験をしました。

そして、カショウも

カンナさんの「お父さんを刺していません」と言う主張受け入れて裁判に臨みます。

裁判には、かつてカンナさんへいたずらをしたユウジくんが、今度は助けるために証人として来ます。

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タイトル「ファースト・ラヴ」の意味

最後に…この物語のタイトル「ファースト・ラヴ」というのは、

人間が生まれて初めて受ける、”両親からの愛” を指しているのではないでしょうか。


ユキにとってのファースト・ラヴは間違いなくガモンであり、

カンナさんにとってのファースト・ラヴユキカショウであったと思います。

おまけ


細かいところですが、ガモンが時折“カンナちゃん””カンナ”と呼んでいるのに対して、

主人公は一貫して”カンナさん”と呼んでいるところが心理師らしくて良かったです。

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