ミッドサマーよりも難解なアリアスター監督の最新作。
作品自体が凄い長いけど、最後まで頭を回転させられた感じだった。
ちなみに私が知っていた事前情報はアリ・アスター監督であるということのみ。
逆にまっさらな状態で観れたのは良い体験だったかもしれない。
あらすじと説明
- あらすじ
ボーは些細なことでも心配になってしまう怖がりの男性だった。ある日、先ほどまで電話をしていた母の怪死の報せを受け、帰郷しようとするボーだったが、アパートの玄関を開けると、目の前に広がるのはいつもの日常ではなく、現実とも妄想ともつかぬ世界で……
- 説明
『ヘレディタリー/継承』のアリ・アスター監督が、ホアキン・フェニックス主演でタッグを組んだ冒険スリラー。母親の突然の訃報を受けて、帰省しようとする怖がりの男性が、玄関を開けた途端に日常とかけ離れた不可思議な世界で冒険を繰り広げていく。共演はネイサン・レイン、エイミー・ライアン、パーカー・ポージー、パティ・ルポーンら。
(参考ページ https://natalie.mu/eiga/film/194832)
統合失調症患者の見る世界
羊水に守られていたところからはじまる斬新な設定。
この世に生を受けてまず聴こえてくるのは、母親のヒステリックな叫び声。
その後現在まで一気に時間が飛び、カウンセリングを受けているシーン
(と思ったけど処方してるから精神科医?)。
ボーの喋り方はとても幼くて、話の内容から母親からの虐待がトラウマになりつつ、共依存状態であることがすぐにわかる。
そして帰路に着くが、道中は落ち着いたカウンセリングルームとは天と地の差。
死体が転がり薬中や暴力が蔓延る町を怯えながら家に帰っていく。
実際にこんな街が存在するのか、それともボーの幻覚なのか、この時点でははっきりしない。
部屋にいる毒蜘蛛、人々がボーの部屋になだれ込むシーン、放置された死体
…全ての要素に不条理なおかしさがあって、これが現実ではなくボーの認知している世界ということが段々わかる。
虐待を受けた子どもの成れの果て
ボーは発達障害を持って産まれ、母親からの虐待でさらに認知の歪みが生じ、愛着障害を抱えながら、不安が強くて母親と共依存状態でもある。
不安と恐怖に支配され、幻覚となって現れさらに怯える。
ボーは統合失調症が発症している状態と考えられる。
この作品は、ボーの視点で描かれており、統合失調症患者が見ている世界を我々も体験させられている。
急に暴れたり、裸のまま外に飛び出したりと、日常で出会ったら”ヤバい人”と思われる行動にも、当事者には相応の理由があって起こっているのが良くわかる。
この作品にはさらに、母からの異常な執着がボーに降りかかっている。
やっとの思いで母の家にたどり着いたボーは、これまで常に母の会社の商品や施設、職員に囲まれてたことに気がつく。
そして母の支配からは逃げられないことと突きつけられる。
「必ず水と一緒に飲むように」と言われた薬を口に含んだ後、水がなくてパニックに陥るシーンがある。
これは、言葉を文面上でしか受け取れない発達障害(ASD)の傾向が顕著に現れている。
アパートで就寝するシーンでは、ボーは何の音も立ててないのに、隣人が騒音を訴えてくる描写がある。
この答えはボーが母の家に帰ってきた時に判明するが、実はここは社会復帰を目指すための街であり、住んでいる人は皆精神病を抱えているということ。
つまり、隣人は幻聴が聞こえていて、ボーに訴えてきていた。
出生そのものがボーにとってのトラウマ
安心できるはずの羊水の中が、母にトラウマを抱えるボーにとっては安心できない場所で、いちばん最初のトラウマを受けた場所でもある。
そのため、母にお風呂に入れられるシーン、母の死を聞いた後のお風呂のシーン、プールの死体、等と水に関連する描写が多い。
そして最後は強制的に水の中(羊水)と取り囲むボート(膜)に戻る。
男性性にトラウマを持つボーだが、同時にボーは男性であり、己の中にある”男性像”に苦しんでいる。
ボーが自分のトラウマを封じ込めている(抑圧している)場所があの”屋根裏部屋”である。
屋根裏部屋に行くと現れる男性器様のクリーチャーは、ボーにとってのトラウマの象徴となっている。
性行為で絶頂を迎えた時に亡くなったと聞かされたボーの実父と、ボーの体験が重なる瞬間があるが、亡くなったのは相手の女性だった。
医者夫婦パートの謎
途中で出てきた医者夫婦は、里親制度風の精神科閉鎖病棟のようなイメージだった。
けれど、夫婦もその娘も薬をお菓子みたいに食べてるし、娘は腕にリスカ痕もあった。
医者は職員だったが、妻と娘はもしかしたら患者だったのかもしれない。
映画を鑑賞した後にすること
まずは難解なこの作品を最後まで見切った自分自身に拍手を送ろう。
そして、下記のリンクの公式サイトにて、ネタバレと解説が載っているので見てみてほしい。
ある程度の説明はあるものの、公式からなんの指摘もない箇所が多数あるので、そこは色々解釈ができると思うので、余韻を楽しむことをオススメする。
公式サイト
アリ・アスターの次回作は一体どうなってしまうのか。
ワクワクと同時に不安と恐怖が掻き立てられる。
コメント